たくさんの人の感性があるからこそ、いろいろな芸術が生まれる。

スペシャルインタビュー: 小塚崇彦さん(フィギュアスケーター)

 

Interview: Hitomi Hasegawa, Photos: Tatsuro Kakishima (Pointer), Stylist: ROOMS Co.,Ltd., Hair & Make: takane (allure)
撮影協力:東京文化会館
※掲載した情報は2018年7月現在のものです。

 


 

フィギュアスケート一家に生まれ育ち、オリンピックや世界選手権など、ジュニア時代から世界と戦ってきた小塚崇彦さん。2016年に現役を引退後は、モータースポーツに参戦するなど新たな挑戦を続けています。そんな小塚さんが、半世紀以上にわたってクラシック音楽やオペラ、バレエなどの世界的な公演を上演している「東京文化会館」を訪問。華麗なスケーティング技術で世界を魅了してきた小塚さんが、この場所で感じ、語ったこととは?

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スポーツと芸術の間で

フィギュアスケートって、スポーツと芸術の融合そのものなんです。その芸術の部分って、人それぞれ感じるものが違うので点数化するのは難しいことですけど、自分の好きなものや嫌いなものを見つけるのはとてもいいことだと思います。感性が磨かれますから。モダンバレエを習っていたこともあって、バレエ公演も見に行っていました。頭では理想のポジションをとっているつもりでも、鏡で見ると実際には出来ていないことが多いんです。客観的に自分の体を知り、ひたすら反復練習をすることでしか、習得できないことがある。フィギュアスケートに限らず、一流の選手って美しいと感じます。スポーツする姿を美しいと思ったり、心地いい動きだなと感じたりすることも、感性を磨いてくれるんじゃないでしょうか。たくさんの感性があるからこそ、いろいろな芸術が生まれるんですよね。

現役時代はスケートの幅を広げていくため、プログラムの楽曲を選ぶ時 には振付師の先生に「今の自分に必要なものって何ですか?」と聞いて、出していただいた3曲くらいから選ぶことが多かったです。クラシックからミ ュージカル、ジャズ、ビートルズまで、いろいろな曲を滑ってきましたけど、思い出に残っている1曲を選ぶとしたら、2010年のバンクーバーオリンピックのフリーで滑った『 GUITAR CONCERTO』です。マイケル・ケイメン作曲で布袋寅泰さんのエレキギターがオーケストラとコラボレーションしているもの。オリンピックという特別な舞台で滑ったということもあり、一番大切にしている曲です。

 

 

アーティストたちが“目指す場所”

大ホールの舞台裏や楽屋の廊下の柱に、出演者たちがびっしりとサインを残しているのを見て、クラシックや バレエ、オペラの人たちにとって東京文化会館は“目指す場所”なんだな、と感じました。ラグビーだったら秩父宮ラグビー場、アーティストだったら日本武道館みたいな所。だからこそ、皆さん、サインを残しているのですよね。フィギュアスケートにはそういう場所があるかなと考えたのですが、ここという場所はなくて、全日本選手権や世界選手権、オリンピックなどの大会が、東京文化会館のような存在になるのかなと思います。

建物も前川國男の代表作だとうかがいましたが、この空間にいるだけでここは“特別な場所”なんだということを感じますね。大ホールは音がすばらしく響くので、ステージ上で思わず大声で歌いたくなりました(笑)。客席に囲まれる感じも、さいたまスーパーアリーナを思い出します。ここで演奏する人は気持ちいいでしょうね。

4階の音楽資料室(133,000点もの 音楽関係資料を所蔵)も興味深かったです。2011年の世界選手権で銀メダルをとった時のフランツ・リストの「ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調」のレコードを聞きながら、ジャケットの解説をじっくりと読んでしまいました。これだけ音源の数が多いと、同じ曲でも演奏者や指揮者でいろいろなチョイスができますよね。無料ですし、いろんな芸術性が勉強できていいですね。

スポーツの普及のために、モータースポーツにもトライ!

競技から引退して2年半ほど経った現在は、フィギュアスケートに限らず、スポーツをより多くの人に知ってもらいたい、実際に体験してもらいたいと思っているので、普及活動をベースにしています。まず自分が知らないと伝えられませんから、さまざまなスポーツにトライしているんですよ。たとえば今年の2月からはモータースポーツを始めています。「86/BRZレース」のために国内A級ライセンスを取り、7月には初レースに参戦します。以前、トヨタ自動車の豊田章男社長から「ラリー(一般道を走る自動車競技)に出ているけど、面白いよ」とうかがったことがあったのですが、レースの話をいただいた時、それを思い出して「やってみよう!」と挑戦することにしました。あの言葉がなかったら、やっていなかったかもしれないです。

フィギュアスケート関連ですと、ブレード(スケート靴の刃の部分)の開発もしています。選手用のブレードはほとんどが欧米製で、日本の技術力を集約したらもっといいものができるのではないかと名古屋の金属加工メーカーの山一ハガネさんと始めましたが、技術を埋め込むことや、選手たちの微妙な感覚を実際の形にしていくことの難しさを痛感しましたね。選手時代から約6年かけて、これだったら世に出しても大丈夫という一定ラインまで来たので、4月に販売を始めることができました。これからもたくさんの方に実際に滑ってもらいながら改良を加えていきます。現役のトップスケーターやこれから世界を狙っていく選手たちに使ってもらいたいですね。フィギュアスケートでもほかのスポーツでも、頭の片隅に「こういうところが面白いよ」とか「こういう見方をするといいよ」というものが残っていると、何かきっかけがあった時にポンッと入ってきやすい。それを多くの人に伝えていくのが自分の役目だと思って、今後もスポーツの普及に努めていきたいと考えています。

衣装協力:Kent.ave

小塚 崇彦(こづか たかひこ)

1989年名古屋市生まれ。5歳の頃より 本格的にフィギュアスケートを始め、 2005- 2006シーズンにジュニアグランプリ ファイナルで日本人初優勝、2010年には バンクーバーオリンピックにて8位入賞、 2010- 2011シーズンの世界選手権で2位 などと輝かしい成績を収める。2016年の 現役引退後はフィギュアスケートのみな らず、スポーツの普及活動に力を入れて いる。8月18日(土)・19日(日)には、広島 サンプラザホールで開催される「プリン スアイスワールド2018」に出演。 https://www.princehotels.co.jp/iceshow/

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