美術もお笑いも、根底にあるものは同じ
作品を生み出す原動力は「感動」

スペシャルインタビュー: 古坂大魔王さん(芸人、プロデューサー)

 

Text: Seiichiro Furusawa, Photos: Tatsuro Kakishima (Pointer), Stylist: Takafumi Tsukamoto, Hair & Make up: Mio Matsumoto (GON.)
撮影協力:東京都庭園美術館
※作品名の入っているものは、「装飾は流転する 「今」と向きあう7つの方法」(〜2018年2月25日)での展示作品です。現在はご覧いただけません。
※掲載した情報は2018年3月現在のものです。

 


 

約1分の動画『PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)』が、動画投稿サイトで1億2000万回以上再生されるなど、世界を席巻した“ピコ太郎”。そのプロデューサーであり、芸人、楽曲制作など、クリエーターとしてもマルチな才能を持つ古坂大魔王さんが、 目黒にある東京都庭園美術館を訪問。1933年に朝香宮邸として建てられ、戦後は、後に首相となった吉田茂の外務大臣公邸や迎賓館としても活用されたアール・デコの館で、敏腕プロデューサーが感じたものとは?

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東京都庭園美術館は “カツカレー”?

美術作品を見て楽しむのって、「想像」と「現実の視覚」の融合ですよね。僕みたいにマンガやアニメが好きな人だったら美術館は絶対に楽しいと思いますよ。特に東京都庭園美術館は、玄関のガラス扉「翼を広げる女性像」からもう凄くて。「『魔法少女まどか☆マギカ』の悪夢のシーンって、こういう作品にルーツがあるのかな」なんて想像しちゃいましたし、「フランスに行ってこういうものを見て帰ってきたんだ」とか「あの写真の吉田茂さんはここに座ってたんだ!」と思える感動があって。ある程度大人になって自分に知識が増えると、重ね合わせて見えるものが増えるので、やっぱり「美術館っていいものだな」って思いますね。

ある番組で勉強したんですけど、人間って脳内シナプスを光らせるために生まれてきた。脳の電気信号が刺激なんですよね。その刺激を浴びるために生きていて、それさえ得られれば、幸せなんです。そういう意味では今回、迎賓館でもあった歴史的な建物の中で、現代アートの作品を展示している「装飾は流転する」展(〜2月25日)を拝見できたので、二重のお得感がありました。僕にとっての庭園美術館って、もはや“カツカレー”ですね(笑)。

 

山縣良和 《七福神》

 

“オリジネーター” が最強

僕は面白がるのが得意で、これには自信があります。自分が楽しくさえしていれば、絶対楽しくなるんですよ。「おいしいね」って言って食べたらおいしいし、「まずいね」って言った瞬間にまずくなっちゃうんです。貧乏性だから、損したくないんですね(笑)。今、お笑いもテレビも全部、みんな審査しようとするでしょ。「これはこうだよね」って分析をすることによって自分が優位に立てる気になるんです。でもこれは絶対違うと思っていて。やっぱり評論したところで新しいものは作れない。じゃなんで作る人がいるかというと、きっと感動して「自分も作りたい」と思ったはずなんですよ。大事なのは感動すること。だから僕はお笑いも音楽も、興味のないものでも、できるだけいいところを探すようにしています。

山縣良和 《地球ルック》

 

もともと芸能だって無駄なものですし、求められていないものを作るって 超怖いことなんです。だから僕は、「傾(かぶ)こうとしている人間」が大好きです。すごい度胸があるじゃないですか。基本に迎合しない行為ってマイナスが多いけど、それを選んでいるっていうのは、相当な技術か説得力がいるんですよ。アバンギャルドやシュールって「どれだけ王道から外せるか」なんですけど、最強なのは、自分だけの表現をできる“オリジネーター”なんです。そうなるためには、やっぱり技術と経験、そして知識が必要。

美術作品も同じで、ピカソの抽象画も一見すると意味がわからないようだけど、実は初期のデッサンとかめちゃくちゃ凄いじゃないですか。基礎ができている正統派でもあるから、そこに自分だけのテイストを加味したものを出しても説得力がある。僕の場合は、その“オリジネーター” にずっとなれず、25年のあいだ何もヒットしなかったんですけどね(笑)。

大事なのは、「基礎」と「ズラし」

よく若い人は「基礎を破壊しなきゃ」とか、「誰もやっていないことをやらなきゃ」って言うでしょ。僕も若い頃は 勉強しないって、ずっと言っていました。お笑いも最初からシュールばっかりやっていたので、ベタができなかったんですよ。その頃はやっぱりダメでしたね。悩んで、あがいて、解決できなかったものが、勉強して解決できた時に、人は成長すると思うんですよ。僕も音楽はきちんと勉強しました。音楽だけをやっていた時期が3年位あって、普通のポップスからロック、ジャズ、HIPHOPを作るということを一通りやって、やっとズラせたんです。

お笑いでもなんでも、まず1個目に思い付いたものを排除するっていうのが、僕の前提です。1個目っていうのは、パッと思い付きで出る、わかりやすい笑い。でもこの分かりやすい笑いはきっとみんなやっているよねと。『PPAP』の場合、「I have a pen」と 「I have an apple」を合わせて「pen and apple」と言うのは普通だと思いますけど、それを刺してみて「Apple pen」としたのがズラし。「何だよ、それ」ってツッコみもあえて入れず、ただピコ太郎みたいな変なおじさんを踊らせたこともズラしです。評論的には「つまんねえじゃん」になるんですけど、その裏には、トラックをめちゃめちゃ本気でガチで作っておいて、ミュージシャン的にはまさかっていうところで「テューン」っていう音を流す。あれ、音楽的には愚の骨頂なんですよ。だから、「ずるいよ、あんなの笑っちゃうじゃん」っていう会話が成り立つんです。

ピコ太郎は僕が想像していた以上に羽ばたいてくれましたけど、今後はさらに世界、特にアジアに飛び出して、いろんな人とコラボレーションしたいと思っています。目標は2020年の東京オリンピック。出るだけじゃなくて、出た時に「なるほど! この人だよね」ってみんなが納得する存在になっていたいです。まだこれからも皆さんに驚いていただけるような仕掛けを考えていますので、楽しみにしていてくださいね!

古坂大魔王(こさかだいまおう)

1973年青森市生まれ。1991年にお笑いトリオ、底ぬけAIR-LINEのメンバーとしてデビュー後、芸人、クリエーター、プロデューサーなど各方面で鬼才ぶりをいかんなく発揮。特に、2016年にプロデュースしたピコ太郎の動画「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」は 、YouTubeの週間再生ランキングで世界1位を獲得。2018年2月、ももいろクローバーZのキッズ向けプロジェクト「ももくろちゃんZ」とピコ太郎のコラボ曲『Vegetable』がYouTubeにて公開! また、avexと日本忍者協議会による「NINJA PROJECT」の「アジアPRアンバサダー」としても活動中。さらに、大反響を集めたピコ太郎初ワンマンライブ「PPAPPT in 日本武道館」が4月18日(水)にDVDとBlu-rayにて発売!
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