2020夏、東京の空に巨大な“顔”が浮かぶ『まさゆめ』とは?

スペシャルインタビュー:現代アートチーム 目 [mé]

左から:南川憲二(ディレクター)、荒神明香(アーティスト)、増井宏文(インストーラー)

 

Interview: Moyo Urashima, Photos: Tatsuro Kakishima (Pointer), Hair & Make: Miho Matsuda (allure)
撮影協力:台東区フィルム・コミッション

 


 

空間を変容させ、鑑賞者を不思議な感覚に引き込む独創的な作品などで、国内外から注目を集める現代アートチーム 目[mé]。「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の中核を担う事業として、斬新なアイデアを公募し採択された13企画「Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13」の一つが、「目」が企画したプロジェクト『まさゆめ』です。世界中から広く募集し、選ばれた「実在する一人の顔」を2020年夏の東京の空に浮かべるという謎のプロジェクトについて、「目」の3人にじっくり話をうかがいました。

  • twitter (別ウィンドウで開きます)
  • facebook (別ウィンドウで開きます)

「目」によるアートプロジェクト『まさゆめ』のイメージ画像。2020年夏の掲揚を予定している。

人類の事件にしたい

 

アーティストの荒神明香、ディレクターの南川憲二、インストーラーの増井宏文を中心に、多い時には20人ほどで活動する現代アートチーム「目」。この企画に応募したきっかけは?

 

荒神 『まさゆめ』は、私が中学生のときに偶然見た夢がもとになっています。塾の帰りに電車に乗っていて、車窓から見ていた林の景色がパッと開けた瞬間、街が広がって、その上空に巨大な人の顔がポンっと浮かんでいたんです。夕暮れのお月様みたいな感じで、うぁーっと思っているうちにまた林に入って、一瞬の景色でした。これ大事だなと思って、いろんな人に話すようにしていたんです。

南川 荒神は子供の頃の記憶をすごく大切にしていて、その夢をもとに、2014年に宇都宮で「おじさんの顔が空に浮かぶ日」というプロジェクトを行いました。これをさらに拡大したいと考えていた時に、企画公募のチラシを見て驚きました!「全部『まさゆめ』のことしか書いていない!」って。だって「応募することで巨大化できるか」「誰でも参加できるか」なんて書いてるんです。これは応募するしかないって(笑)。2020年夏には、ビルの6階か7階建て位の大きさの“誰かの顔”を東京の空に浮かべます!

荒神 オリンピックって、世界中の人が見ているけれど、なかなか自分ごとに感じられない人もいる。有名な人の顔ではなく、「これ誰?」っていう顔が空に浮かぶことによって、もしかしたら自分だったかもしれない、自分の顔もありえたんじゃないかと思ってもらえるかもしれない。あらゆる人がもう他人事ではなくなってしまうようなことを打ち出したいって思ったんです。あとで誰が鑑賞者だったか?と問われた時に、「人類です」と答えられるような壮大なプロジェクトにしたいですね。

 

 

3人で一緒に活動する理由

そもそもなぜ「目」という名前で活動?

南川 荒神から「大切すぎて、当たり前すぎて、気づかないもの」っていうお題を出されて、直感的に出てきたのが「目」だったんです。

荒神 自分の目って絶対に見ることは出来ないじゃないですか。見えているのが当たり前だけど、実際は、見えているのは目がついているからなわけで。人間はほんの少ない情報の中でわかりきって生きていると思っているけど、本当はわからないことの方が圧倒的に多い。それが「目」の作品を作る時のきっかけになっているんです。

南川 こんな荒神の抽象的なアイデアを、僕がそれってこういうこと?って突き詰めていって、「作品として出せそうだぞ」となったら、二人で増井にプレゼンするのが、僕たちのスタイルです。

増井 それを聞いて、面白い!とピンときたものを、どうやって実現させるかを考えるのが僕の役割。インストーラーというのは美術制作や作品の設置をしたりする人です。二人のアイデアは聞いたことがないものが多いし、誰かがすでに作っているようなものでもないので、まずは作り方を相談できる人を探すところから始まります(笑)。

南川 もともと僕と増井の二人で芸術活動をしていたのですが、大学院で荒神と出会って、彼女の考え方に衝撃を受けまして。それぞれが一番発揮できる力を本気で考えたときに、僕らはアーティストというよりも、制作だったりディレクションをするほうが実は得意じゃないか、そう割り切った上で荒神を誘いました。今はそれぞれが個々の力の発揮どころを共有して、腕6本というか1つの身体をみんなで動かしているような感じがありますね。

 

左:『まさゆめ』の実現に向けて、議論と試行錯誤を重ねているという「目」のメンバー。
右上:世界中から空に浮かぶ「顔」候補を募った。 右下:道ゆく人に声をかけての「顔候補」撮影風景。

 

一人の顔はどう選ばれる?

南川 2019年3月から6月にかけて、国籍や性別、年齢問わず顔を募集すると同時に、「顔収集ワークショップ」を開催して、約1,400人の顔が集まりました。その後、どんな顔が選ばれるべきかをみんなで話し合う公開ミーティング「顔会議」を実施して、「直視できないくらい生々しい」、「景色になった時に人の視線を跳ね返す顔」などのキーワードが出てきました。荒神はそのニュアンスを掴んだので、その感じを大事にしています。

荒神 皆さんがパッと顔と対面した時の直感みたいなものを得たいっていうのがあって。実際に顔写真を風景写真にトリミングしてみたらよく見える人がいたり、いろいろなタイプの顔があります。悩みながらも段々見えてきています。

南川 禅問答みたいなもので、選ぶんじゃなくて、もう決まっているっていう感じなんです。「逆さの必然」って自分たちでは言ってますけど。

増井 僕は完璧なクオリティでみんなに見てもらえるようにしたいなっていうのが一番です。実際に巨大な顔を作って浮かべるって難しいんです(笑)。宇都宮の時も、自分なりに海外も含めてこの技術がある可能性のある所全てをあたって直接交渉しました。たぶん世界中でこれ出来るのここしかないって所を見つけたので、今回もたぶんそこが中心になるかなと。宇都宮では街の色んな場所から見える所まで上がりましたので、東京ではさらにもっと上げたいですね。

荒神 浮かんだ時に「なんだ?」って遭遇するようなことが面白いんじゃないかと思っているので、本当は、顔を浮かべることもいったん忘れてしまいたい(笑)。色んな人の人生の中で記憶に残る体験になるんじゃないかと思っています。

南川 偶然ビルから見る人もいるだろうし、目が合うかもしれないですよ。それが一人の女の子の夢なわけで、超パブリックなものが、超プライベート。選ばれる顔はたった一人だけ。当日まで応募者の皆さんは「自分かも」とワクワクしていて下さい!

目 [mé]

アーティスト・荒神明香、ディレクター・南川憲二、インストーラー・増井宏文を中心とする現代アートチーム。個々の技術や適性を活かすチーム・クリエイションのもと、特定の手法やジャンルにこだわらず展示空間や観客を含めた状況/導線を重視し、果てしなく不確かな現実世界を私たちの実感に引き寄せようとする作品を展開している。2019年11月2日〜12月28日、初の大規模個展「目 非常にはっきりと わからない」を千葉市美術館にて開催。また、東京都とアーツカウンシル東京による企画公募採択事業「Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13」の1つとしてアートプロジェクト『まさゆめ』を2020年夏に展開する。

フォトギャラリー

  • フォトギャラリー|現代アートチーム 目 [mé]

画像をクリックすると拡大します