ART NEWS TOKYO2021. 11

みうらじゅん × 望月昭秀 マニア対談「今こそ縄文を語ろう!」

スペシャル対談:みうらじゅん(イラストレーター)× 望月昭秀(『縄文ZINE』編集長)

構成・文:村山章 撮影:福田栄美子


 

東京都江戸東京博物館で開催中の「縄文2021―東京に生きた縄文人―」(2021年10月9日〜12月5日)。
1万年以上もの長きに渡った縄文時代の暮らし、特に東京に焦点をあてる特別展で、東京という地域の縄文時代を考える大規模な展覧会は35年ぶりとなります。

2021年7月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録されるなど、縄文文化への注目が高まる今、ゆるキャラから地方の奇祭まで、日本各地のユニークな文化を訪ね歩いてきたみうらじゅんさんと、フリーペーパー『縄文ZINE』編集長で「道南縄文応援大使」も務める望月昭秀さんが、独自の視点で展示物を鑑賞しあいながら、まだまだ謎の多い「縄文」の魅力について、対談しました。

  • twitter (別ウィンドウで開きます)
  • facebook (別ウィンドウで開きます)

 

望月 はじめまして。『縄文ZINE』というフリーペーパーを作っている望月と言います。

 

みうら みうらじゅんと申します。よろしくお願いします。

 

── 望月さんは“縄文人”として人生相談に乗る本『縄文人に相談だ』なども出版されています。

 

みうら なるほど。“縄文人”だからここの展示物のことも全てわかるわけですね(笑)。

 

望月 はい。あくまでもわかる範囲で、ですけど(笑)。

 

土偶は縄文時代の“土産”だった!?

 

 

 

みうら この「多摩ニュータウンのビーナス」は、「縄文2021」展のポスターになってた土偶ですね! 目の下が白くなってますけど、もともと白く塗られていたものなんですか?

 

望月 顔の向かって右側が出土した部分で、左側は復元した部分なんですけど、目の下が白く塗られているんです。

 

みうら このメイクは後に、大槻ケンヂさんが引き継いだんでしょう(笑)。しかし「ビーナス」と呼ばれているってことは、この土偶は女性ですか?

 

《土偶》(多摩ニュータウンのビーナス) 多摩ニュータウンNo.471遺跡 東京都教育委員会蔵

 

 

望月 性別はハッキリとはわかりません。現代人ってわりとすぐに「ビーナス」って付けがちなんですよ(笑)。ただ、人の形に近づけるというより、かなりデフォルメされていて、中性的な印象が強い。これは顔の半分は復元ですけど、土偶って、顔じゃなくてもいろんなところが壊されているケースが結構多いです。

 

みうら これはあくまで僕の仮説なんですが、この土偶は当時の土産だったんじゃないですか? このデザインっぽさも土産っぽいと思うんですけど、どうでしょう?(笑)。

 

望月 でもこのタイプはそんなに数が出土してないので、店を開くほどじゃないと思います(笑)。ただ山梨の釈迦堂というところでは千体くらいの土偶が出ています。顔は違うんですけど、基本は全部同じデザインで。

 

みうら やっぱり、そこは土産物工場ですよ! 縄文人って結構ちゃんとした暮らしをしていたらしいじゃないですか。となると土産という概念はあったんじゃないですか?

 

望月 遠方への土産に石とかを持っていった可能性はあります。翡翠(ひすい)はかなりの高級品でしたし、黒曜石でできた長野の矢じりが北海道で見つかったりもしてるんです。

 

都内出土のヒスイ・コハク。縄文人をも魅了したヒスイは、国内唯一の生産地であった新潟の糸魚川から長野、山梨を経て都内へ、通称「ヒスイロード」と呼ばれるルートで運ばれたと想定されている。

 

上手な土器、下手な土器

 

 

みうら このコーナー、土器の説明に上手いとか下手って書いてますけど、その区別は誰がしたんですか? こっちの歪んでるのなんて、わびさびがあって上手いですけどね。

 

下手な土器(《深鉢型土器》多摩ニュータウンNo245遺跡)東京都教育委員会蔵

 

望月 上手い下手にもいろいろ理由があって、一概にテクニックだけじゃないんですけど、右側の土器(上の写真)はテクニック的にも下手だなとは思います(笑)。左にふたつ並んでる土器(下の写真)はほとんど同じ大きさで、同じ模様で作られていて、そういうのは結構珍しいんです。火焔型土器は別にして、土器ってあまり同じものを似せて作ったりしないので。

 

上手な土器(《深鉢型土器》多摩ニュータウンNo245遺跡)東京都教育委員会蔵

 

みうら ということは、同一人物が作った可能性が?

 

望月 それはありますね。それから縄文人が作るものって抽象が多いんです。たぶん具象的なものは描いちゃダメっていうルールがあった。でも「描きたい!」と思った人たちが、抽象の中に具象を忍び込ませたんだと思うんです。最初期の土偶は顔もないし手足もない。それが、だんだん顔がOKになったり、ちょっとずつ表現の幅が広がってる感じがするんですよね。

 

みうら その変化が何千年がかりって、当時の人は気が長いですよねえ。仏像の世界でも、仏の部分にはいろいろと決まりがあるけど、四天王に踏まれてる邪鬼とかの部分はたぶんフリースペースだったと思うんですよ。だから、平安末期くらいから邪鬼だけ躍動感がやたらと出ちゃってね。やっぱり作り手としてはそこは自由に作ったんじゃないかねぇ。

 

 

《注口土器》と《小型深鉢土器》青梅市寺改戸遺跡 重要文化財 青梅市郷土博物館蔵

 

 

望月 これなんて、今の土瓶とそっくりの完璧なデザインの「注口土器」も出土されているんですよ。何を入れていたのかはわからないですけど。

 

みうら なるほど。この「注口土器」もデザイン的には既に完成されてますよね。南部鉄で作ったら、かなりいい土産になると思うんですよ。

 

町田市に“ゆるキャラ”デザイナーがいた?

 

 

望月 こっちは東京都内で出土した土偶を100体ならべたコーナーです。

 

みうら わー! 東京も、いいの出てますね(笑)。足だけのヤツは、もっとデカイ土偶の一部だったってことですよね? 指が4本しかないのは人間じゃないのかも知れないね。獣かなあ。

 

望月 土偶って指の数が不思議で、手が出てくると三本指が多いんです。あと、こっちの足は6本指。本物の人には近づけちゃいけないっていうルールがあったのかも知れないです。

 

みうら 5本描くと煩雑になるから少なくしたのかもですね。そういうデフォルメについても縄文人はわかっていたのかも。

 

(中央)《中空土偶》(愛称:まっくう)町田市田端東遺跡 町田市指定有形文化財 町田市教育委員会蔵

 

望月 この土偶は、町田市で出土したんで “まっくう” って呼ばれています。

 

みうら もうコレ、完全に“ゆるキャラ”じゃないですか! 町田にはいたんですね、売れっ子のゆるキャラデザイナーが。

 

 

望月 かも知れません(笑)。ただ、不思議なことに北海道でもほとんど同じデザインのものが見つかってるんですよ。

 

みうら それは売れ線ってことですね! 町田で流行った土産が、北海道にまで届いたってことでは?

 

望月 その逆の可能性もあると思います。あと、土偶や土器って、隣接する地域が影響しあって、地域性というか、地元な感じがすることが多い。今回の展示も関東っぽいデザインが並んでると思いますよ。

 

国宝 土偶(縄文のビーナス) 茅野市所蔵 尖石縄文考古館保管〔展示期間:10月19日〜11月14日〕

 

みうら 国宝の《縄文のビーナス》は、東京の土偶100体とは別に展示されてるんですね。

 

望月 はい。東京ではなく長野県で出土したもので、今回特別に展示されています(11月16日以降は《仮面の女神》を展示予定)。

 

みうら やっぱり国宝だけあってデフォルメ・デザインがすごい。僕、長野でこの形を模した貯金箱買いましたよ。

 

望月 確かにおカネ貯まりそうですよね。ビーナスはキラキラしてるし、これは本当に完成されているというか、初めて作ってできるようなデザインじゃないですよね。

 

みうら 不思議ですよね。顔がハートなこともそうだし、ヘッドギアみたいなのかぶってるし。こういうのを雑誌の「ムー」に任せると、完全に宇宙人ですってことになりますけどね(笑)。

 

東京の海岸部でも活躍した丸木舟

 

北区中里遺跡から出土した丸木舟(全長5.8m)都指定有形文化財

 

 

みうら この大きいのはなんですか? これがまるごと泥の中に埋まっていたってことですか?

 

望月 はい。これは丸太を削って作った「丸木舟」です。

 

みうら このまま出てきたんですか! すごいですね。何人乗りなんですか? ミニチュアだと乾電池が三本入りそうな形ですけど。

 

望月 (笑)。最大4、5人くらいで、あまり大勢は乗れないですね。ものを運ぶためには水運を使った方が便利だったんだと思います。

 

 

「縄文のムラ」の1/20復元模型。縄文時代中期の環状集落(多摩ニュータウンNo107遺跡)をモデルとし、集落の景観を再現している。

 

みうら こっちのジオラマにも、船に乗った人がいますね。それにしても大きいジオラマですね。ところで縄文の人たちは、本当にこのジオラマの人形みたいな服装をしていたんですかね?

 

望月 それはわかってないんです。でも、布を作っていたり、裁縫をしていたことはわかってます。あとは土偶や出土した耳飾りなどの装飾品から、こういう格好をしていたんじゃないかと想像したファッションです。

 

重要文化財《土製耳飾》調布市下布田遺跡 江戸東京たてもの園蔵

 

 

みうら なるほど。この耳飾りが並んでいるコーナーなんて、まるで銀座の宝飾店みたいですね。

 

 

 

望月 この石棒は、個人的に推したい展示品なんです。大きさもスゴいですし、男根状になっているんですけど、めちゃくちゃに壊された跡があって不思議なんです。

 

みうら 縄文では既に男根崇拝があったんですか?

 

望月 男根状のものはよく出土しますね。これはその中でもかなりデカい方ですけど、石って普通はここまで粉々にはできない。だから繰り返し焼いて、水をかけて砕いている。そのせいで変色もしています。それにしてもどうしてここまで壊したかったのか……。おそろしい人たち。

 

(手前)町田市指定有形文化財《石棒》町田市忠生遺跡 町田市教育委員会蔵

 

みうら この石棒、石膏で補完されてますけど、石膏の部分はごそっと見つかってないわけじゃないですか。どのパーツがどの場所だってどうしてわかるんですか?

 

望月 これは一応繋がっているのでだいたいわかるんですけど、展示される度にちょっとパーツが増えたりしてるんで、現代人の判断も入っているかもしれませんが(笑)。

 

みうら もうジグソーパズルですよね。パズル会社に言って、なくなった部分をもらえればいいのに(笑)。

 

意外と生活圏内にある縄文遺跡

 

 

 

みうら 僕、前から縄文のことは気になってたんです。でも、あくまでも気にはなっていたレベルで。青森の木造町まで、遮光器土偶をかたどった駅舎を見に行ったりもしたんですけど、土偶の実物は東京国立博物館にあるって言われてしまいました。でもせっかくなら現地で見たい気持ちってありません?

 

望月 わかります。

 

みうら 木造町で「しゃこちゃん温泉」っていう看板を見ましたけど、「しゃこちゃん」って遮光器土偶のことなんですよね(笑)。

 

望月 木造町の遮光器土偶の駅舎は、たしか、ふるさと創生資金の1億円で作ったんですよ。意外とみんな楽しんでるんで、有効的な使いみちだったと思います(笑)。今回の展示は「東京に生きた縄文人」なんですけど、東京も縄文人はかなり住んでいて、出土品はけっこう多いのですが、普通はこれだけの点数は集まらないので凄いです。東京の人は意外と縄文してたんですよね。

 

みうら 展示に“下落合”とか知ってる地名が出てくるだけで、グッときますよね。

 

望月 埋蔵文化財の地図とかを見ると、コンビニの下に縄文の遺跡があったりします。生活圏のそばにあるっていうだけで、急に身近になって、縄文も違って感じられたりすると思うんです。縄文時代は東京も地形が違っていて、東東京あたりは結構海だった。ちょうどアニメ映画の『天気の子』で出てくる水没した東京が、縄文時代の風景ですね。

 

みうら ”縄文人”を名乗る望月さんとして、今は生きやすい時代なんですか? やっぱり縄文のほうが良かったですか?

 

望月 縄文の方がよかったかと聞かれたら、そうなのかも知れないですけど、でも結局はおんなじだと思うんですよね。やっぱりみんな、今日は狩りに行きたくないなあみたいな日もあったと思いますし。

 

みうら 仕事行きたくない日もあれば、土器焼きたくない日もありますよね(笑)。

 

望月 そこは現代人と変わらない辛さもあったと思うんです。土器を作るにしても制約も多かったし、ある意味では現代の方が自由かも知れない。逆に現代みたいに税金を納めなくてもよくて、気がラクだったかも知れない。生命としては、森とか、大きなものには逆らえないですから、やっぱりコンビニに行ったらなんでも買えるし、ご飯を作るのも簡単だし、現代はラクでいいなって思いますけどね(笑)。

 

みうら いまはスマホだってありますしね。

 

望月 でも黒曜石の質感って、スマホにすごく似てませんか。スティーヴ・ジョブズも、石器なんかをイメージしてスマホを作ったんじゃないかと思うんです。最新の道具の見た目が最古の道具に接近してるのって、面白いなと思いますね。

 

みうら よくSF映画では空中に浮かんでるデータを操作したりしますけど、やっぱりみんな、形のあるものを操作しないと気持ちが悪いんですよね。

 

望月 はい、やっぱり手触りはあってほしいですよね。

 

みうら そう、手触りが欲しいんですよ。電車でみんなスマホ持ってるのも、石器持ってるのと同じかもですね。何百年もしたら、スマホがいっぱい出土することでしょう。「スマホ塚」なんて呼ばれてね。

 

望月 縄文は物も命も循環型の社会だったと思うんで、”縄文人”としてはスマホもちゃんとリサイクルして欲しいですね(笑)。

 

プロフィール

みうらじゅん
1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『「ない仕事」の作り方』(文春文庫)など著書も多数。2021年12月中旬頃に新潮社より辛酸なめ子との共著『ヌー銅』が発売予定。また、12月18日からはアサヒビール大山崎山荘美術館の開館25周年記念展として「みうらじゅん マイ遺品展」が開催される。 みうらじゅん公式ウェブサイト http://miurajun.net/

 

 

 

望月昭秀(もちづき・あきひで)
1972年生まれ。株式会社ニルソンデザイン事務所代表。2015年から縄文時代をテーマにしたフリーペーパー『縄文ZINE』を発行。著書に『縄文人に相談だ』(角川文庫)、『蓑虫放浪』 (国書刊行会)などがある。2019年より「道南縄文応援大使」に就任、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録実現への機運盛り上げにも寄与した。

フォトギャラリー

画像をクリックすると拡大します