祝祭感あふれるワーグナーの超大作、15年ぶりの東京上演

スペシャルインタビュー:大野和士(指揮者)

インタビュー:加藤浩子(2019年12月27日)

 


 

2020年の東京を盛り上げる文化の祭典「Tokyo Tokyo FESTIVAL」の主要な事業として、大野和士総合プロデュース・指揮のもと、2年に渡り展開している国際的なオペラプロジェクト『オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World』。2019年の『トゥーランドット』に続き、2020年は『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を、6月14・17日に東京文化会館で上演します。約5時間半(休憩含む)の上演時間に及ぶワーグナーの超大作に挑むマエストロ大野に見所を聞きました。

新型コロナウイルス感染症の影響等に鑑み、本公演は中止となりました。なお、本公演につきましては、2021年度での開催を検討しております。詳細は決まり次第、公式サイト等でお知らせいたします。

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指揮者  大野和士   @Herbie Yamaguchi 提供:東京都交響楽団

市民のオペラで世界に問う

 この夏、多くのクリエーターたちが、いろいろな日本の文化を発信しようと考えていますが、私はオペラ指揮者として、今の日本でどんなレベルのオペラが観られるのかということを、この作品で世界に問いたいと思っています。

 オペラは、日本の歌舞伎と同じ1600年頃に生まれ、歴史を同じように積み重ねてきました。もともとは宮廷芸術でしたが、19世紀には市民のものになり、多くの人に共有されて今に至っています。

 今回の演目は、オリンピックにちなんだ五大陸のオペラを提案したところから始まっています。昨年上演した『トゥーランドット』は中国の物語ですのでアジア代表として選び、ドイツの古都ニュルンベルクを舞台とした『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、ヨーロッパ大陸を代表するオペラとして選びました。『マイスタージンガー』は1868年=明治元年に初演された作品で、都市に暮らす職人の親方たちが芸術の素晴らしさを高らかに歌い上げる市民のオペラです。喜劇ですからハッピーエンドですし、第2幕の最後にはドタバタ劇のような場面もある。合唱も大活躍しますし、庶民の歌である讃美歌も出てきます。今を生きている人間を描いた人間のためのオペラですので、オリンピックイヤーに相応しい作品ではないでしょうか。

 

オペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガ―』ザルツブルク・イースター音楽祭公演より

温泉に浸かるように聴いてほしい

 ワーグナーのオペラは長いイメージがありますが、ある一定時間聴くと麻痺してしまうような魅力があって、それがワーグナーの音楽の秘密でもあるんです。このオペラは美しい詩をいかに美しい旋律で歌うかという音楽物語ですから、音楽自体は聴きやすいですし、音がもくもくと湧いてきて感じがどんどん変わっていくので、初心者でも聞き飽きることがありません。最後まで聴くと胸がいっぱいになりますよ。万が一寝てしまっても、目が覚めた時にワーグナーの音楽が鳴っている。これも、一つの幸せな体験かもしれません。

 お話はごく簡単。若い二人が一目惚れしますが、結ばれるには青年が歌の試験を受け合格した上で、歌合戦に勝たなければならない。大勢の大人たちが邪魔をする中、高邁な精神をもつ親方ザックスが自分の恋を諦めて二人を応援し、青年はその過程で人としても芸術家としても成長し、恋人と結ばれます。『マイスタージンガー』は「前奏曲」がとても有名ですが、最後の場面、青年が歌合戦で勝利して冠をいただく大団円で、その「前奏曲」が帰って来た時は本当に感動的です。どうしてあの「前奏曲」があったのかが最後まで聴くとわかります。生きていて良かった、と思えますよ。これが『マイスタージンガー』という作品の魅力です。温泉に浸かるようにワーグナーの音楽に浸ることができたら、きっと幸せになれると思いますよ。

 

 

オペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』 左:ザクセン州立歌劇場公演より ©Semperoper Dresden / Luding Olah 右:ザルツブルク・イースター音楽祭公演より ©OFS / Monica Rittershaus

東京五輪のレガシー「都響」と共演

今回ピットに入る東京都交響楽団(以下「都響」)は、1964年の東京オリンピックを機に、1965年に設立されました。その都響が、2020年の文化事業として『マイスタージンガー』を演奏することは大変必然性のあることだと思います。設立から50年以上が経って、都響は日本で一番ヨーロッパ的な響きを持つ、ワーグナーを演奏するのにふさわしいオーケストラに成長しました。このオペラのすぐ後には、日本のオーケストラとしては初めてエディンバラ国際フェスティバルという世界的な音楽祭に招聘されていることからも、世界的に評価されていることがわかると思います。

 今回は、東京文化会館と新国立劇場に加え、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場(ドレスデン)という海外の一流歌劇場との国際共同制作となります。ザルツブルクやドレスデンではすでに上演されましたが、セットも明るく、視覚的にも見やすいプロダクションです。「自然」もこのオペラの重要な要素です。ラストの歌合戦の場面では、舞台中央に大きな樹が配され、その周辺で物語が展開します。夜の場面でも光があり、いつも「希望」が感じられます。れていることからも、世界的に評価されていることがわかると思います。

 演出家のヘルツォークは、舞台となっているニュルンベルクの州立劇場の芸術監督を務めていて、街の空気を吸っている人。今回の演出家として、理想的ではないでしょうか。歌手も、ザックスを演じるトーマス・ヨハネス・マイヤーをはじめ、国内外の第一線で活躍する歌い手が揃いました。日本を代表する歌手がアンサンブルで集まってくれたのも大変うれしいです。この作品は、合唱も大きな見所ですので、そこにも期待してください。

大野 和士(おおの かずし)

東京生まれ。東京藝術大学卒。ピアノ、作曲を安藤久義、指揮を遠藤雅古の両氏に師事。バイエルン州立歌劇場でサヴァリッシュ、パターネ両氏に師事。1987年にトスカニーニ国際指揮者コンクールで優勝。以後、ザグレブ・フィル音楽監督、ベルギー王立歌劇場(モネ劇場)音楽監督、フランス国立リヨン歌劇場首席指揮者などを歴任。現在は都響およびバルセロナ響の音楽監督、新国立劇場オペラ芸術監督を務める。また、2020年の東京を盛り上げる国際的なオペラプロジェクト『オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World』の総合プロデュースと指揮を務め、6月より、国内3会場にてワーグナー作曲『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を上演する予定。

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