表現者の思いや個性が見えた瞬間が一番面白い。

スペシャルインタビュー: 貫地谷しほりさん(女優)

 

Photos: Tatsuro Kakishima (Pointer) Stylist: Hiroyo Aoki Hair & Make up: SAKURA (Allure)
撮影協力:江戸東京たてもの園
※掲載した情報は2017年11月現在のものです。

 


 

NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』や、舞台『ハムレット』など、若手実力派女優として多方面で活躍する貫地谷しほりさん。どんなものでも裏側にあるストーリーを知りたいという貫地谷さんは、今回訪れた「江戸東京たてもの園」でも、さまざまな建物の成り立ちや建築家の人となりに興味津々。30代を迎えて心境にも変化が出てきたという貫地谷さんに、お話をうかがいました。

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前川國男邸のストーリーに感動

もともと建物を見るのは好きで、いろんな家をたくさん見ていた時期があったんです。江戸東京たてもの園には、江戸から昭和の歴史的価値がある建物がたくさん移築されていて、よくもまぁ、こんなに集めたなって思いました。特に今回は、特別展「ル・コルビュジエと前川國男」を解説いただいた後、園内の「前川國男邸」を見学できたので、前川さんの人となりや、師匠のコルビュジエに影響を受けた部分、どのような思いで自邸を建てられたのかという流れがわかって面白かったですね。

実際に前川邸に入ってみると、真ん中が大きく吹き抜けになっていて、ゆとりをもったリビングがとても贅沢だと感じました。扉の開け閉めも劇的で忍者屋敷みたい。戦時下の住宅で、コンクリートが使えず、面積は30坪以内と制限された中、木造でなんとかコルビュジエみたいな家を建てようとされたと伺って、涙が出そうなくらい感動しました。
私はインテリアや家具がとても好きで、名作と呼ばれるものは全部チェックしていた時期もあったんです。その頃にコルビュジエの椅子を見て、人体の理論に基づいてデザインされたものということは知っていたんですが、シンプルでありながら機能性も追求しているというところが、彼の建築理論からきているものだとわかったのは新しい発見でした。

建築も演劇も絵画も全てに共通すると思うんですけど、その人が何を表現したいのかが見えた瞬間にすごく面白いと感じます。コルビュジエでいうと、自分の美的感覚が確立されていて、その人の思う美しさはどれなんだっていうのが見えた時。わかりやすく言うと個性なんですかね。それが楽しいです。

 

子宝湯

ターニングポイントとなった舞台『ハムレット』

私は飽き性なので、ずっと映像をやっていたら舞台に立ちたいって思うし、映像には映像の、舞台には舞台の表現があって、一つリセットできる場だと思っています。この春、東京芸術劇場をはじめ、地方でも公演を行った舞台『ハムレット』は、私の役者人生の中で一つのターニングポイントとなるくらい、大きな経験でした。

英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーという本場でやられているジョン・ケアードさんが演出をされると聞いて、オフィーリア役のオーディションを受けたんです。シェイクスピアって避けていたわけではないんですけど、まだ先でもできるという思いがあって、何となく手を出せずにいました。30歳を迎えたこのタイミングならとオーディションに挑戦してみたら、全然できなくて……。「うわ、落ちた」って思ったら急に、「絶対にやりたい」って思っている自分がいたんです。受かって本当に良かったです。

シェイクスピアはまず台詞を覚えるだけでも大変なのですが、その先にジョンという素晴らしい案内人がいてくれたので、本当にいい時間でした。表現の幅というか、すごく導いてくれる演出家なんです。日本の方とは全然違う感覚でした。

台本を読んだ時は「何でこんなことを言うんだろう」と疑問に思うところが多々あったんですが、ジョンは全てに対して「こんなにちゃんとした流れがあったんだ」という解釈をたくさん教えてくれて。毎日、目から鱗が落ち続けていました(笑)。稽古場はマネージャーも一切入れなくて、演出家とスタッフとキャストだけ。英語なので通訳さんもいて、言葉の壁があったはずなのに、いつもよりコミュニケーションの密度が濃かったですね。

表現は終わらない

丸二商店

よく表現には「正解はない」って言いますけど、今回その言葉の意味がひとつ腑に落ちた瞬間があったんです。毎日同じ舞台をやっていると、人間なので全く同じことは出来ない。でも今日のテンションのまま次にどう動きたいかを考えると、また新しい感情が出てきて、違うアプローチが見えてくるんです。「出来なかった」ではなくて、昨日とは「違ったけど」っていう考え方ですね。違ったけどまた新しいことを見つけられるという。地方公演も毎回新鮮で、それまで思っていたオフィーリアの感情の流れとは違うところで心が動くってことをたくさん体験できました。

シェイクスピアって伝統芸能みたいなものかとも思うんです。少しずつ形を変えて、現代の私たちにもわかるように伝えられたり、400年経った今でも研究が続けられ新解釈が生まれている。だとすると、それが表現なのかもしれないって。無理をしない。探そうと思ったらいつでも探せるし、どこまでも探しに行ける。本当に終わらないんだって。今までは「こうじゃなければいけない」って思いがどこかにあって、それも大事なことだと思いますけど、今回の建築家の方々のお話を聞いていても、やっぱり一番大事なのは、自分が何が好きでやりたいのかを探していくことなのかなと思いました。

この春は刺激的な出会いがもう一つあって、2017年秋公開の映画『望郷』の菊地健雄監督が、一切妥協せず本当の感情を追求される方だったので、ここでもすごく導いていただきました。島が舞台のこの作品では、大きなお屋敷が象徴として使われていて、私の役からすると『そこにいると自分の思うように生きられない』という恐ろしい場所なんです。出演者全員が気持ちをむき出しにして挑んだ作品になっています。

20代の頃は、可愛いおばあちゃんになりたいとか、みんなが理想とするものを自分もきっと求めていたと思うんですけど、30代を迎えた今は、出来ないではなくて、次に何をやるのかを楽しみたい。今を積み重ねて、自分が選択していくことを逃げないでやりたいなって思っています。

衣装協力:花柄ガウン、スカート(以上2点UN3D. 03-6853-2200)、靴(GALLERIE TOKYO 03-6434-9770)、Tシャツ、イヤリング(以上2点スタイリスト私物)

貫地谷しほり(かんじや しほり)

1985年東京生まれ。2002年映画で女優デビュー。2004年映画「スウィングガールズ」で注目を集め、2007年NHK連続テレビ小説「ちりとてちん」で初主演。2013年の主演映画「くちづけ」でブルーリボン賞主演女優賞を受賞。映画、ドラマ、CM、舞台、ナレーションなど幅広い分野で活動の場を広めている。現在、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に出演のほか、今秋には湊かなえ原作の感動ミステリー「望郷」が公開。家に縛られた娘。亡き父の思いを知る息子。ある島で起こる親子の物語。9月16日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次拡大上映。
貫地谷しほり Instagram(@shihori_kanjiya

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