※部署名と肩書は取材当時のもの
「裏方の仕事って根本にはみんなを喜ばせたいという人が多いんじゃないかなと思います」と話すのは、照明・映像によるデザインやプログラミング、また演出照明の統括などを担当する新島啓介さん。音楽や演劇の題目に合わせて光による演出を考え、制作と本番の進行を行います。高校生のころ音響の道を志した新島さんは、専門学校在学中にアルバイトでまわったツアーで照明デザイナーに出会い、その世界へ入ります。はじめは舞台の制作会社に就職し、アーティストのコンサートツアーやテーマパークの舞台照明などを担当しました。転機になったのはシルク・ドゥ・ソレイユ。チームの運営や管理、本番のオペレーションなど照明のマネジメントを任されました。世界的なショーでも、アナログな作業の創意工夫でステージをつくり上げていたことが印象的だったそうです。その後、芸劇に転職したのは2012年。
「4つの劇場に多目的なスペースもあり、これだけの規模の施設管理やマネジメントに関われること。そして高校生などのアマチュア公演から世界的な公演まで幅があり、それまで携わってきたエンターテインメントの舞台とは違いますが自分にとって大きなステップアップになると思いました」
芸劇では毎年、高校演劇の都大会も行われていますが「実はプロよりも難しくて」と新島さん。
「高校生たちのやりたいことをなるべく丁寧に引き出します。『背景をグレーにしたいんです』という希望があっても照明はグレーにはできない、じゃあどうするか、といったところを探る。その過程が楽しいですね」
芸劇の照明職員は3名。「僕らの仕事は一人ではできない仕事なんですよね。それぞれが違う個性を持って魅力が生かされる現場だと思います」と語ります。
現在は2人の職員で4つのホールを担当しています。照明の仕事が視覚演出だとすると、音響の仕事は「聴覚演出」だと言います。
「視覚は意識の感覚、聴覚は無意識の感覚と呼ばれています。演劇の場合、視覚演出は作品世界そのものをつくりあげますが、聴覚演出はその外側からアプローチして観客を作品世界に導きます。4畳半の部屋が舞台上にセットされていたとして、そこでガタンゴトン、ガタンゴトンという音が聞こえたら、『鉄道沿線にある家なんだ』と感じますが、ポンポン、ヒョッヒョーと船の汽笛が鳴れば『港町の家なんだ』と感じるのです」
仕事で大事にしているのは、客席。「音は空気の振動なので体に変調をきたす可能性もある。演出家でも主演俳優でもスポンサーでもなく、いま目の前にいるお客さんを一番に考えること。それがもっとも重要な視点だと思っています」と話します。
松島さんの担当する分野は「舞台」。大道具や小道具といった舞台美術のほか、本番の進行やマネジメントを担います。演出家の意向をくみながらスタッフの調整や進行管理を行う仕事はステージマネージャーとも呼ばれています。幼いころはサーカスのピエロになるのが夢だったという松島さん。たまたま家族で見に行った演劇作品『アルジャーノンに花束を』に感銘を受け、役者を目指します。パフォーミングアーツを学べる大学に進学し、演技のほか照明や大道具、舞台監督などを実践的に学びました。
「大学でいろいろな仕事を学ぶうちに、裏方のほうが楽しくなってしまったんです」と話す松島さん。卒業後は舞台監督の助手として、現代舞踊やバレエなどの踊りの公演現場を経験します。あるときオペラ『蝶々夫人』のスタッフとして芸劇に関わる機会がありました。そこで舞台技術者の募集があり約7年前に入職。最初は不安もあったそうです。「ダンス公演の基礎はありましたが、芸劇で担当するジャンルはさまざま。特に機材や舞台機構の管理はほとんど初めての経験で、すべて教えていただくところから始まりました」と話します。
舞台担当の職員は松島さん含め3人。「些細なことでも年齢や性別の垣根なく相談できる環境です。先輩に対しても、自分の意見を伝えることができて一人ひとりの考えが尊重されるチーム」と表現します。そして、柔軟性が求められるマネジメントの仕事は「楽しい」と話す松島さん。
「公演ごとに例えばライティングの仕込みや音響のプラン、舞台装置も違うので毎回同じスケジュールにはなりません。私の場合はこういうスケジューリングだけれど、別の人はこういうスケジューリングかもしれないと方法はいくらでもあって。そこが面白いですね」