東京都歴史文化財団で働く「中の人」たちに焦点をあて、仕事やひとを紹介するシリーズ。東京芸術劇場の舞台技術の仕事、後編は石丸耕一(いしまる・こういち)さん、新島啓介(にいじま・けいすけ)さん、松島千裕(まつしま・ちひろ)さんによる座談会です。音響、照明、舞台とそれぞれの専門が違いながら、同じ部署で働く3人。連携の取り方や今後の技術の進展についてなど話題が広がりました。
(前編はこちら)
東京都歴史文化財団で働く「中の人」たちに焦点をあて、仕事やひとを紹介するシリーズ。東京芸術劇場の舞台技術の仕事、後編は石丸耕一(いしまる・こういち)さん、新島啓介(にいじま・けいすけ)さん、松島千裕(まつしま・ちひろ)さんによる座談会です。音響、照明、舞台とそれぞれの専門が違いながら、同じ部署で働く3人。連携の取り方や今後の技術の進展についてなど話題が広がりました。
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――普段、みなさんがどのように連携をとりながら仕事を進めているのかお聞きできたらと思います。最近のお仕事を例に教えていただけますか。
松島:私は直接担当だったわけではないですが、最近だとオペラの公演でしょうか。
石丸:本来は1〜2年前に企画があがりテクニカルチームも参加しますが、その時は数カ月前からという短い期間での準備となりました。「あれをやりたい」「これをやりたい」という思いがあっても、スケジュール上はできる日がどこにもないという……。
新島:上演前に劇場に入る「仕込み」の日にようやく台本があがりましたよね。ホールを使うことは劇場の利用料が発生するので、どうしても時間との戦いになるんです。制作サイドからすると1区分でも短くしたいという考え方になる。現場で作業できる時間は限られます。
――そうした困難な状況をどのように乗り切られたのでしょうか。
石丸:舞台・照明・音響の専門性を尊重し合いつつ、ワンチームとして情報共有を常にしています。それが大事ですね。たとえば演出家が照明のことで思い付くと照明担当に話がいく。指揮者が音のことで思い付くと音響に話がくる。でも、実は照明にも音響にも舞台にもみんなに影響が出ることが多いのです。だから「うちにこういう話がきたよ」とセクション間で共有することが必要かなと思います。
松島:違うセクションが同じ事務所にいることは結構大きいですよね。ミーティングの場を設けなくても、共有がしやすいです。
新島:コミュニケーションがデジタルではなく、アナログなんですよね。とにかく話すようにしています。「こんな話出ていたけど、きいてる?」と、事務所で席が近いので気軽に共有できる環境です。
――短期間でまとめていく舞台技術の仕事は、やはり時間外勤務になることも多いですか。
石丸:長時間勤務のイメージがある職種かと思いますが、勤務時間をきちんと守り、そこから必要な準備日数や予算も算出していく。いまはそういう方向になっていますね。
新島:僕は家に持ち帰らないと決めて、勤務内でまとめるようにしています。結局現場でないとできないことも多いんですよね。
――少し安心しました(笑)。みなさんのような技術の仕事は、常にテクノロジーの進化とともにあるかと思います。今後、この仕事がどのように変化していくと思われますか。
石丸:音響は、音という空気の振動を電気信号に変え、最終的にスピーカーを通してまた空気の振動に戻すという、効率の悪い仕事です。変換のためのスピーカーやミキサーなどの機材はこの数十年でどんどん小型化し移動も簡単になりました。ですが、いま聞こえている空気の振動が客席にとってベストかどうかという判断は我々が行いますし、どうしてもアナログの仕事が残ると思います。
新島:照明は想像もつかないですね。どんなに機械で光を制御できても、照明を吊るのは人ですし、機材に不具合があったときには手で修理しなくてはならない。シミュレータのようなものは今後も充実していくと思いますが、人の手が離れることはないでしょうね。
松島:舞台機構の仕事には、パネルや幕、スピーカーを昇降するといった大きな機械の操作があります。コンピュータによって条件をプログラミングしたり、安全のより良いシステムが開発されたりしても、人間が目視をして安全を判断する部分は変わらないのではないかなと思います。大きな機構の操作は事故につながる恐れもあり、緊張を緩和できるようなサポートシステムができるといいなと期待はしているのですが。
――今後、みなさんのお仕事を知りたいときは「東京芸術劇場バックステージツアー」に参加するのもいいですね。
新島:各部署の仕事を紹介したり、普段は入れない場所で操作したりと、体験もできます。毎回人気があって抽選になることもありますが、ぜひ参加してみてください。
――最後に東京芸術劇場は2024年9月30日から約10カ月間、一時休館に入りますが、芸劇はどのように新しくなるのでしょうか。
石丸:目的はおもに空調の工事ですが、毎年、舞台技術分野では中長期計画をたてているので、この機会に機器やシステムの更新も行う予定です。それに合わせて、扱う側の我々もスキルアップをしていく期間になると思います。
――少しずつ進化していく芸劇の再開がいまから楽しみです。
取材・文:佐藤恵美 撮影:畠中彩