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国際的なアートハブとしての機能の強化を目指す「東京文化戦略2030」。中でもアートマネジメント人材の育成は重要なテーマの一つです。2023年度にスタートした「アートマネジメント人材等海外派遣プログラム」は、若手アートマネジメント人材を対象に海外の芸術フェスティバル等への短期派遣を行い、現地での体験や海外の芸術文化関係者との交流を通して、派遣参加者自身の国際的な活動の第一歩を後押しすること、さらに本事業をきっかけに東京と派遣先との連携を深めネットワークの構築・強化につなげることを目指しています。
2回目の実施となった2024年度は、視覚芸術分野を代表するビエンナーレである「ヴェネツィア・ビエンナーレ」に3名、舞台芸術分野においては、東南アジアで最も古いコンテンポラリーダンスのフェスティバルである「インドネシア・ダンス・フェスティバル(ジャカルタ)」に3名、世界最大規模の国際プラットフォームである「CINARS(モントリオール)」に4名と、計10名が派遣されました。
2025年2月6日、派遣参加者が一堂に会して派遣後の報告会が開かれました。第1部は、各自がプレゼン形式で派遣先での体験談や成果を紹介。主催者が企画した参加必須のベーシック・プログラムと、自らの興味関心に基づいてリサーチを行い、視察・関係者へのヒアリングなどの企画・交渉・調整を行ったオリジナル・プログラムについて、それぞれ報告を行いました。第2部は座談会形式でお互いの発見や気づきをさらに深掘りし、派遣後の展開や今後の活動について語らいました。
ヴェネツィア・ビエンナーレでは招待制のプレ・オープニングである「ヴェルニサージュ」に参加。4日間の滞在期間では見切れないほどのプログラム数で、興味のあるものをそれぞれに観て回ったとのこと。アート関係者の国際交流の舞台でもあるオープニングウィークに参加できたことが貴重であったと振り返ります。また、ミラノとローマでは、文化施設の訪問や展示鑑賞、関係者ヒアリング、アトリエ訪問を経験。行く先々で自己紹介を何度も経験するうちに、自分の興味関心を英語で表現するよい訓練になったといいます。
自国のアーティストが世界とつながる場としてインドネシアの国際的なプレゼンスを高めることが強く意識されたインドネシア・ダンス・フェスティバル(以下、IDF)、ローカルなコミュニティをベースに直面しているテーマと向き合うインドネシア・ドラマリーディング・フェスティバル(以下、IDRF)と、2つのフェスティバルを体験。ジャカルタではIDFのディレクターやキュレーターへのヒアリング、ジョグジャカルタでは現地のアーティストやアートワーカーが拠点とするスタジオやシアターを訪問し、食事を一緒にいただきながらひたすら話をしたそう。お互いの活動についての会話が大いに盛り上がったようで、現地での和気藹々とした雰囲気が感じられた報告でした。
CINARSのいくつかの公演を鑑賞したほか、MUTEKの本拠地やシルク・ドゥ・ソレイユの本拠地などを見学。メディアアートやコンテンポラリー・サーカスなど、モントリオールが世界に誇る舞台芸術の心臓部に迫りました。CINARSのエグゼクティブ・ディレクターとのミーティングでは「長期的な視点を持って、2回、3回と通う中で関係性をつくっていけばいい」という心強いアドバイスに勇気付けられたといいます。
満員の聴衆に見守られながら、派遣先での体験を熱量そのままに熱く語る10名。共通していたのは、派遣先での体験を素直に吸収することで自らの課題意識やキャリアの軸を再確認し、自分の次のアクションについて派遣先で得た人脈や情報を生かして、早速実践に動き出す企画力と実行力を兼ね備えていること。短いながらも濃密な1週間から得たものはかけがえのないものであったことが伝わってきました。各々の異なる視点から紡がれる言葉が折り重なって、現地の様子が立体的に浮かび上がってくるように感じられた報告会でした。
岩田 智哉 IWATA Tomoyaキュレーター東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了。2022年4月より、キュラトリアル・スペースThe 5th Floorのディレクターを務める。「Gwangju Biennale Academy International Curator Course」(光州、2024年)、「2024 Workshops for Emerging Arts Professionals: New Flows」(Para Site:香港、2024年)等の国際的なプログラムやシンポジウムに参加。
戸塚 愛美 TOTSUKA Manamiインディペンデント・キュレーター公共空間における展示のあり方に関心を寄せ、サイトスペシフィックなアートプロジェクトに多数参画。主な展覧会に、さいたま国際芸術祭2020公募キュレーター企画展「I can speak」(2020年、さいたま市)、「Words are Bellows」(2024年、リトアニア首都ヴィリニュス)など。NPO法人BARD代表理事。
三木 茜 MIKI Akaneアートマネージャー武蔵野美術大学卒業後、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ修了。アートフェア東京、あいちトリエンナーレ2019、ANB Tokyoなどで事務局を経験。2023年よりフリーランスとして活動を開始し、アートと社会をつなぐさまざまな事業の進行管理や制作に携わる。クリエイティブな事務局づくりを目指し、アートと社会をつなぐさまざまな事業の進行管理や制作に携わる。
菊地 もなみ KIKUCHI Monamiディレクター、パフォーマー早稲田大学文化構想学部卒業。俳優としてキャリアをスタートし、劇場での舞台班、演出助手などを経験。山形、兵庫、奄美など日本各地のフィールドワークを展開し、各地の風土や暮らしに育まれてきた表現、土地と身体のつながりを探究する。2023年インドネシア滞在。(国際交流基金)国や文化、分野を越えた協働と、様々な人が集う「場」づくりに関心をもつ。
黒木 裕太 KUROKI Yuta制作、ダンサー、演出家2020年度東京芸術劇場プロフェッショナル人材養成課程修了。以降はフリーランスとして東京芸術劇場社会共生担当事業に携わる。2018年からインドネシアのアーティストとコラボレーションを行っている他、地元宮崎県の中山間地域でのコミュニティプロジェクトなど、地域に根差した多様な人々との活動を展開している。
寺田 凜 TERADA Rin制作、アートマネジメント東京学芸大学教育学部教育支援課程(E類)表現教育コース卒業。学生時代の俳優業やロンドンへの留学を経て、合同会社syuz’genに新卒入社。以降、人材育成事業や現代演劇の公演制作を担当。2021年より、東京芸術祭の人材育成事業「東京芸術祭ファーム」の制作を担当し、2024年には統括を務めた。
臼田 菜南 USUDA Nanami舞台芸術広報舞台芸術業界の広報支援を担う中間支援団体にて、公演宣伝のための記事執筆やSNS運用等を担当後、2023年からはフリーランスで、これまで同様芸術分野の広報業務に加え、他業界のマーケティングにも携わる。2024年より、舞台芸術に関心をもつ人が集うコレクティブ「ゲイジュツの空き地」を始動。創客につながる取り組みの実践をつづけている。
大塚 健太郎 OTSUKA Kentaro劇作家、演出家、プロデューサー劇団あはひ主宰。早稲田大学文学部演劇映像コース卒業。2022-23年度セゾン文化財団セゾン・フェローに選出。2024年度より三井みらいチャレンジャーズオーディション(カルチャー創造部門)に採択。
大野 創 ONO Hajimeアートマネージャー、アドミン、制作者桜美林大学にて劇作、演出を学び、その後東京を中心に同年代の劇団で制作活動を開始。劇団の団体運営を請負ながら、公共の事業のアドミンとして活動。現在は緊急事態舞台芸術ネットワークが主催する『SOIL事業』の事務局として事業を推進している。
笠川 奈美 KASAKAWA Nami振付師、ステージングディレクター中学生から演劇を始め、大学在学中、トルコの演劇学部に交換留学。大学卒業後ダンスに目覚める。モダンダンサー森澤碧音に師事。広崎うらん、増田ゆーこの元でアシスタントを経験し現在、振付師、ダンサー、ステージングディレクターとして活動中。
アートマネジメント人材等海外派遣プログラム東京都が世界的な芸術文化都市を目指す上で、世界に通用する作品を生み出しその価値や芸術性を発信することで東京と世界とをつなぐ役割を担う、若手アートマネジメント人材の育成が欠かせません。本プロジェクトでは、意欲溢れる若者たちを短期で海外の芸術フェスティバル等に派遣し、先駆的な作品や創作創造現場に直に触れ、グローバルな視点から創造的な活動を推進、海外セクターとネットワーク構築・強化する機会を提供し、国際的な活動の第一歩となるよう後押しすることを目指しています。
撮影:中山裕貴取材・文:前田真美
text by 前田真美ライター、翻訳者。1992年生。演劇、建築、伝統文化に関わる取材・執筆活動を行う。東京大学建築学科を卒業後、同大学学際情報学府にて修士号を取得。研究テーマは「劇場とまちづくり」。2017年〜建設コンサルタントとして、公共施設の整備や海外の都市開発計画を経験。アーツアカデミー東京芸術劇場プロフェッショナル人材養成研修・令和3年度研修生(演劇制作)。2022年〜企業メセナ協議会メセナライター。