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「START Box」の新拠点・白鬚を開設。ビジュアルアーツから舞台芸術まで、地域と地続きの創作の場をひらく

事業リポート

若手アーティストに創作の場を提供し、継続的な活動を支援する事業である「START Box」。都営住宅等の空き店舗をアトリエにリノベーションする形で、ビジュアルアーツ分野の若手アーティストに対して、利用しやすい料金で貸し出す事業として2023年に始まりました。これまで、笹塚・幡ヶ谷の水道道路沿いにある都営住宅の空き店舗を活用した「START Box ササハタハツ」とお台場の都民住宅敷地内の駐車場の一角を活用した「START Box お台場」の2拠点で、約3年間で延べ67名のアーティストが利用してきました。施設を利用するアーティストに対しては、創作場所の支援だけでなく、地域やアーティスト同士の交流の機会や、作品発表の場なども提供しており、特に半期に一度開かれる「START Box EXHIBITION」は作品発表のほか、アーティストトークや対話型鑑賞といった関連プログラムを交えながら、アーティスト同士あるいはアーティストと来場者、アーティストと社会との出会いの場として好評を博しています。

これまでの2拠点に加えて、2026年1月に新たな拠点「START Box 白鬚」を開設しました。「アトリエ」に加えて、初めて「稽古場」を開設。演劇や舞踊等の舞台芸術分野のための創作活動スペースを新たに整備しました。2025年秋に利用者募集を行い、2026年1月からアトリエで4組、稽古場で4組の利用が開始しました。

「START Box 白鬚」の外観

墨田区に誕生した新拠点「START Box 白鬚」

「START Box 白鬚」は、墨田区堤通にある都営白鬚東アパートの空き店舗をリノベーションして整備されました。東武伊勢崎線「東向島駅」から徒歩約12分、隅田川沿いに連なる都営白鬚東アパートの一角に位置し、少し歩くと緑豊かな公園や遊歩道に気軽にアクセスできます。

「START Box 白鬚」の外観

「START Box 白鬚」は、「アトリエ」、「稽古場」、「作業場」、「交流スペース」で構成されています。かつて住宅併設型の商店街として機能していた空き店舗を活用しているため、長屋のように複数の区画が連なる形で並んでいます。

「START Box 白鬚」アトリエ

街とのゆるやかなつながりを感じながらも、個人の制作に没頭できる「アトリエ」

「アトリエ」は、美術、写真、メディア芸術等のビジュアルアーツ分野が対象となっています。全4区画で、約20㎡と約25㎡が1室ずつ、約30㎡が2室と広さが異なる個室空間があり、「アトリエ」については2023年の事業スタート以来の蓄積されたノウハウが今回の空間整備にも存分に生かされたそう。

「START Box 白鬚」アトリエ 間取り図

事業担当者 ササハタハツやお台場の「アトリエ」を利用したアーティストからの要望や意見をふまえて、長期利用するアーティストにとってより使い心地のよい空間づくりを目指しました。例えば、個室空間を確保することで周りを気にせず制作に集中・没頭したいニーズに応えつつ、誰でも出入りできる「交流スペース」を設けることで、少し会話をしたり息抜きができたりする配慮もあり、アーティスト自身が自発的に過ごし方を選び、集中と交流のバランスをとれるようにしたのも工夫の1つです。また、「アトリエ」も「稽古場」も通りに面した開口部が前面ガラス張りで、カーテンを開ければ開放感があり、創作空間を閉ざされたところではなく、開いている点も特徴です。

「START Box 白鬚」の「アトリエ」を利用している、まちだリなさんは、映像や空間インスタレーションなどを手掛けるアーティストで、2月と3月に予定されている展示に向けた作品制作・実験・実証のための場所探しをしていたところ、SNSを介して今回の「START Box 白鬚」の情報に出会い、利用申請に至ったといいます。

アトリエを利用しているまちだリなさん

まちだリな 仕事と制作を並行しているので、仕事がある日は夜だけ立ち寄ったり、丸一日こもって集中する日があったりと滞在時間は日によって様々ですが、いつ来ても使える場所が保証されているのがとても便利だと感じています。特に映像制作は時間もコストもかかるのですが、このアトリエが借りられたことで、生活と制作のバランスをとりながらの活動がしやすくなりました。

「アトリエ」内には個室ごとにトイレと水場が完備されており、冷暖房設備やWi-Fi、冷蔵庫も利用できます。前述の通り、通りに面する開口部は全面ガラス張りではありますが、目隠しになるカーテンが常設されているので、開放したい時は開けて、集中したい時は閉めるといった、状況に合わせた使い方ができるようになっているのも嬉しいポイントです。

室内設備に、机、トイレ、流し、傘立て
室内設備に、靴棚、ゴミ箱、冷蔵庫、Wi-Fi

まちだリな アトリエ空間では、アーティストは一日のうち長い時間を過ごすので、冷暖房設備や水回りの充実はありがたいです。壁がフラットに大きいので映像を写すスクリーンとしても使えますし、壁に資料を貼って検討するのにも便利です。アトリエがあるのが1階で、歩道に面しているというのもいいですよね。歩道に面したガラス張りの開口部は掃き出し窓になっているので、鉄パイプなど重量のある資材を搬入するのが容易で助かっています。

アトリエの様子

「アトリエ」を利用するアーティストに対して、地域交流や作品発表の場を提供

「START Box」の「アトリエ」では、定期的に「オープンアトリエ」を開催しています。アーティストたちが作品創作に利用しているアトリエを入場無料・予約不要で一般に開放することでアーティストと地域住民との交流を促しています。

事業担当者 一般の方に作品を見てもらったり、ワークショップに参加してもらったりする機会をつくることで、アーティストが自身の作品や活動について第三者に説明をする経験を重ねることができ、アーティストにとっては創作の糧に、来場される方にとってはアーティストの活動や作品鑑賞を身近に考えてもらうきっかけになれたらと考えています。

「START Box 白鬚」では2026年3月22日に開催(お台場は3月14日、ササハタハツは3月15日開催)を予定しています。今後「START Box」の利用を検討している方も施設を下見できるほか、実際に利用しているアーティストに活動の様子を聞くことも可能です。

シンプルだからこそなんでもできる「稽古場」

「稽古場」は「START Box」初めての試みということで、外部のスタジオ見学や専門家へのヒアリング等を踏まえて空間作りを検討。全4区画で、約50㎡が3つ、約40㎡が1つとなっており、稽古場利用者は、付帯施設として「作業場」も自由に使うことができます。

「START Box 白鬚」稽古場 間取り図

事業担当者 稽古場のしつらえを考えるにあたっては、若手の舞台芸術分野のアーティストのニーズを反映したいという思いがありました。機能を入れ込みすぎず使い方を限定しないような空間の作り方にすることで、演劇か舞踊かどちらか一方のニーズだけを満たすものにならずに、演劇、舞踊、あるいはそれ以外のジャンルを超えた舞台芸術分野の需要に応えていくことを目指しました。鏡がある部屋とない部屋、床が板張りの部屋とリノリウム張りの部屋、といったように、用途によって選択できるようにしたのもこだわりのひとつです。

「START Box白鬚」の「稽古場」を利用しているVon・noズは、上村有紀さんと久保佳絵さんによる2人組のダンスユニット。3月に予定されている新作公演に向けた稽古・リサーチ・宣伝用映像撮影・打合せの場として活用しているそう。

Von・noズ(左:久保佳絵さん、右:上村有紀さん)

上村有紀 「START Box白鬚」に稽古場ができることは、チラシ折り込みをきっかけに知りました。利用料がお手頃で、1ヶ月という短期集中も自分たちのニーズに合っていたので利用申請をしました。ダンスの稽古で音源を使うことを考えると、ある程度の防音設備がある空間を求めていたこともあります。

久保佳絵 申請時点で床の環境を選ぶことができる点もよかったです。私たちはリノリウムの床を選んだけれど、釘打ちできる床の部屋も選べるっていいですよね。

リノ張りの床・防音性のある壁

上村有紀 ある程度の期間をまとまって借りられることで、荷物を置きっぱなしにできるのがありがたいです。バランスボールとか、衣裳とか、大きめの小道具に使うものを保管しておけると、用事の合間にもふらっと身軽に立ち寄りやすい。特にユニット活動をしていると2人の予定を合わせないといけないので、丸一日過ごせる日以外にも、隙間時間で短い時間集まることもフレキシブルにできるおかげで、スペースの利用頻度は高くて、ほぼ毎日来ていると思います。各室ごとに備え付けられた掃除用具を活用して、長く過ごす空間をいつも綺麗な状態に保てるのも嬉しいです。

久保佳絵 私たちの創作スタイルでは、実際に身体を動かすこと以外に、リサーチやミーティングをする時間もかなり必要なので、個室の備品としてホワイトボードや机・椅子も役立ちました。「START Box 白鬚」は、公演直前の通し稽古というよりは、稽古やその前段階の実験を繰り返しながらピースをつくっていくプロセスに、とても適した空間だと感じています。

稽古場の様子

また「稽古場」を利用する方は、付帯施設として「作業場」を自由に使うことができます。「作業場」にはミシンを備えているほか、貸出備品としてラジカセ、譜面台、ホワイトボード、レッスンバー、プロジェクターなどを備えており、公演に向けた小道具づくりなどの準備もできます。「作業場」の利用や備品貸出に関しては使用料金の中に含まれています。

実際にVon・noズのふたりも、ミシンを使って衣裳の直しをしたり、稽古のためにレッスンバーを借りたりと、「作業場」をうまく活用しながら、「START Box 白鬚 稽古場」での時間を有効に使っているようでした。

作業場

「START Box」がアーティストとともにつくる、ボーダレスなプラットフォーム

「START Box」は、年齢、ジャンル、アーティストの方向性が同じではない多様な利用者が、「アトリエ」や「稽古場」で制作に向き合いつつ、「作業場」や「交流スペース」といった共有空間を介してゆるやかに共存する時間を過ごしている点が非常に魅力的です。同じアーティストであっても、普段の活動ではなかなか出会わない世代やジャンルの人々とふいに交わる可能性があるというのは、アーティストにとって新鮮な刺激となり自身のクリエイションにも新たな影響が生まれるきっかけとなるかもしれません。そして一度「START Box」を利用したり、関連イベントに参加したりしたことがある人にとっては、「あそこにいけば、誰かが何かをやっている」という心のサードプレイス的な居場所としても記憶され、持続的に寄り添っていける場になりうるのではないでしょうか。

「START Box 白鬚」外観

住民の日常生活を支え、地域コミュニティとして機能していた都営アパートの空き店舗を「生活の場」から東京のアートシーンの未来の種を養う「文化・創造の場」へ。アーティストたちの活動を支えながら、人と人とのつながりの中に新しい交流や発想を生んでいく「START Box」には、若手アーティストにとって使いやすい創作の場となること、そして、アーティスト同士、地域の人々との新たな交流や発信の拠点になっていくことが期待されています。

文:前田真美
撮影:藤島 亮