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芸術文化による共生社会の実現を目指す 「だれもが文化でつながる国際会議」をレポート【②ショーケース他 編】

「だれもが文化でつながる国際会議」ショーケースの展示風景

2022628日(火)から77日(木)にかけて開催された国際カンファレンス「だれもが文化でつながる国際会議」。東京国立博物館で開催された国際会議と並行し、73日(日)から7日(木)までの間、東京都美術館を会場に【国際会議(分科会)】、【ショーケース(展示会)】、【短期集中キャンプ「共鳴する身体」成果展示】、【ネットワーキング(ブース・プレゼンテーション、グループ・ミーティング)】が行われ、世界各国の企業や団体により展開されているさまざまな取り組みが紹介されました。
ここでは、①国際会議編】につづき、【ショーケース(展示会)】を中心にレポートします。

アクセシビリティを高める最先端の技術を紹介「イノベーション・デザイン展示」

芸術文化を通じた社会包摂の現状を紹介するショーケース(展示会)の「イノベーション・デザイン展示」では、最先端のテクノロジーや、障害当事者自身がデザインのプロセスに関わるインクルーシブ・デザインによって開発されたプロダクトが主に紹介されました。

株式会社exiii designは、小西哲哉さんが設立したデザイン事務所。障害当事者であるユーザーや様々な分野の人々と協働することで生まれた、陸上競技用車椅子「WF01TR」、脊髄損傷者用長下肢装具「C-FREX」、オープンソース義手「HACKberry」などを手掛け、新しい生活スタイルや未来に向けたモビリティを提案しています。

陸上競技用車椅子「WF01TR」。車椅子陸上アスリート・伊藤智也選手と共同開発され、東京2020パラリンピックで同モデルを使用。
脊髄損傷者用長下肢装具「C-FREX」(大人用・小児用)。パラアイスホッケー日本代表として活躍した髙橋和廣選手が東京2020の聖火リレーでも装着。

HACKberry」は、外形や基盤、プログラムなどの義手作成に必要なデータが無償で公開されているオープンソース義手です。ユーザーは自身に合わせて義手をカスタマイズすることができ、通常は150万円程度かかる筋電義手を約5万円で制作することが可能となりました。現在も、世界中のエンジニアやユーザーによって、新しい機能やデザインが追加されており、子どもサイズにカスタマイズする事例なども生まれているそうです。

「HACKberry」は3Dプリンターで作るオープンソースの電動義手。
作成するために必要なデータはすべて無償で公開されている。

神戸芸術工科大学准教授の金箱淳一さんは、視覚や聴覚の障害のあるなしにかかわらず、一緒に遊べ/感じることができる「共遊楽器」の開発をおこなう楽器インタフェース研究者。「Touch the sound picnic」は、メガホン型の本体を音のある方向へ向けてボタンを押すと、本体が拾った音が振動に変換され、触感で音を捉える事ができるツールです。「Mountain Guitar」は楽器の高さを変えたり、楽器の向きを変えたりする、いわゆる「弾きマネ」だけで音程を変化させることができるギター。障害を持つ人でも直感的に演奏することができるのです。

「Touch the sound picnic」は音を振動に変換するデバイス。イヤーマフをつけて音が遮断された状態で「音に触れる」感覚が体験ができる。
「Moutain Guitar」は、本体に弦がなく、弾く真似をすることで音を奏でることができる楽器インタフェース。

株式会社オリィ研究所が開発したのは、分身ロボット「OriHime」。「OriHime」にはカメラとマイクが設置されており、障害者や外出困難者は「OriHime」を自宅にいながら操作することができます。取材当日も、がんのため在宅治療中の「イトさん」が、「OriHime」を遠隔操作し、来場者に説明を行っていました。

分身ロボット「OriHime」。取材当日は、パイロットのイトさんが遠隔から来場者に説明を行ってくれた。

なお、外出困難な人々がこの分身ロボット「OriHime」を遠隔操作して働くカフェ『分身ロボットカフェ  DAWN ver.β』は、世界的なメディアアートの祭典「Ars Electronica(アルスエレクトロニカ)」が主催する「Prix Ars Electronica 2022(プリ・アルスエレクトロニカ2022)」で、デジタルコミュニティ部門の「ゴールデン・ニカ」(最高賞)を受賞しています。

アジア地域の文化施設のおけるさまざまな取り組みを紹介する「アーカイブ展示」

同じくショーケースの「アーカイブ展示」では、アジア地域に広がる文化施設・組織の活動を紹介。主体や目的は異なりますが、どの施設もさまさまな社会課題に対して新しいアプローチを提案しており、文化施設の新しい可能性を見ることができました。

台湾国家人権博物館(NHRM)は、「国家」「人権」を施設の名称に冠したアジア初の博物館で、2018年に開館。NHRMは国際人権博物館連盟(FIHRM)のアジア太平洋支部(FIHRM-AP)としても活動しており、その一環として202110月から20223月まで開催された展覧会「Ayo!Ayo! 明日はきっと良い日 移住労働者人権特別展」について紹介。移住労働者をテーマとした展覧会がどのように生まれ、開催されていったのか、展覧会の内容と開催までのプロセスをあわせた展示を行いました。

FIHRM-APでは、14の博物館とNGO・市民団体が共同学習チームを立ち上げ、移住労働者の人権を守るための連携について検討を進めている。
台湾国家人権博物館「Ayo!Ayo! 明日はきっと良い日 移住労働者人権特別展」を紹介

インドネシアの「Struggles for Sovereignty: Land, Water, Farming, Food(SFS)」は、アーティストやキュレーターなど、さまざまな専門家からなるコレクティブ。本展では、カカオの木が育つ地域に住む人々が、植民地時代に西洋の最新技術にとって奪われてしまったカカオの古来から伝わる農法や技法、知識を取り戻すまでの道のりを綴ったドキュメンタリー映像「チョコレートの作り方」をはじめ、アートを軸にした住民との対話やインタビューの映像などを通して、彼らの活動を紹介しています。

インドネシア「Struggles for Sovereignty: Land, Water, Farming, Food(SFS)」の展示風景

また、会場となった東京都美術館の活動についての展示スペースも。同館は、2012年のリニューアルオープン時にハード面にユニバーサルデザインを取り入れ、さらに一般から集まったアート・コミュニケータ(とびラー)とともに活動を行う「とびらプロジェクト」をスタート。ほかにも、上野にある他の美術館や文化施設と提携して行っている子どもたちのためのプログラム「Museum Start あいうえの」やシニアの方々を対象にした「Creative Ageing ずっとび」など、同館が展覧会事業と並行し展開しているアート・コミュニケーション事業について紹介しました。

東京都美術館のアート・コミュニケーション事業を紹介する展示コーナー
左:「Museum Start あいうえの」で、子どもたちが作った鑑賞ノート 右:参加者に郵送する封筒に押すアート・コミュニケータ(とびラー)お手製の消しゴムハンコ
ワークショップの成果展示や、各種団体の活動紹介のコーナーも

ショーケースに加え、短期集中キャンプ「共鳴する身体」の成果展示のコーナーも設置されました。これは、障害の有無や文化、言語、考え方の異なる人々が協働し、芸術文化の新しい楽しみ方を考案するプログラムで、5日間にわたってワークショップが行われました。

公募によって集まった参加者たちは、ゲスト講師によるレクチャーやグループワークなどを通じて協働でプロトタイプ制作に取り組み、成果展示では、参加者たちが考案した新しい楽器が展示されました。

短期集中キャンプ「共鳴する身体」で参加者が制作した新しい楽器の数々

「オノマトペット」は、耳の聞こえる人、聞こえにくい人でも楽しめる、吹き出し型のインターフェース。タブレットのオノマトペをタッチすると、オノマトペットが振動や視覚、音でオノマトペのイメージを伝えてくれます。

「クッキーハウス」はセンサーにふれると、にぎやかな家の音景色(サウンドスケープ)から、静かな家の音景色に変化する楽器。「ポップコーン」からは、ポップコーンができる時のような「ポコポコ」といった音が発生します。部屋の片隅に飾っておけるかわいらしい姿もポイントです。

「オノマトペット」
「クッキーハウス」と「ポップコーン」

さらに、公募によって選ばれたホストが、プレゼンテーションやミーティングを実施する「ネットワーキングプログラム」も実施。ブース・プレゼンテーションでは、国内外の文化関係機関やNPO、クリエイターなどの23団体がブースを出展し、訪れた人々に、自らの活動を紹介する場となっていました。

一般財団法人東京都つながり創生財団による「やさしい日本語」の展示
福祉を起点に新しい文化を創り出すブランド「HERALBONY」のブース
東京都写真美術館の感覚と対話を育む鑑賞教材「色と形と言葉のゲーム」や、東京都江戸東京博物館のさわれる模型など、都立文化施設の取り組みも紹介。

世界5カ国・地域から100組以上の専門家、団体、クリエイターが東京に集結し開催された「だれもが文化でつながる国際会議」。濃密なプログラムを通してさまざまな知見の交換が行われ、新たなる連携も生まれました。共生社会の実現に向けて、わかりあうこと、そしてつながることの重要性について、改めて実感する10日間となりました。

取材・文:浦島茂世