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東京都江戸東京博物館リニューアルオープン〜前編〜

事業リポート

江戸・東京の伝統文化の保存と都民文化創造の一大拠点として、体験型の展示が魅力の東京都江戸東京博物館(以下、江戸東京博物館)。菊竹清訓によって設計された建物は、両国駅前にあって堂々たる佇まいを見せ、両国国技館と並ぶ両国エリアを象徴するランドマークとして、長年多くの方から親しまれてきました。

そんな江戸東京博物館が、令和4年度から約4年間にわたる大規模改修工事を経て、令和8年3月31日にリニューアルオープンを迎えました。その見どころを前編・後編にわたってご紹介します。

まず前編では、新しい江戸東京博物館に寄せられた期待感を象徴する「建築・空間デザイン」と、リニューアルオープンまでの機運を高める活動の一環として行われた「参加型企画」を中心にご紹介します。

3階「江戸東京ひろば」の大型映像投影

「東京のアイコン」となる博物館を目指した建築・空間デザイン

江戸東京博物館が目指すのは、「東京のアイコン」となる博物館。今回の大規模改修工事に際して、建築家・重松象平氏がパートナーを務める国際的建築設計事務所OMA(Office for Metropolitan Architecture)とともに、館内外の空間デザインに取り組みました。

重松氏はリニューアルにあたり、藤森照信館長からの「エントランスからのアプローチの動線をもっとわかりやすくしたい」「3階のひろばをもっと有効に活用したい」「展示室の高い天井高空間をもっと活かしたい」という思いを受け止め、菊竹清訓氏設計の建築のポテンシャルをさらに高めるアイデアを発想したといいます。

まず、博物館へのアプローチには「日常から非日常へ移り変わっていく心の準備が必要」と考え、入館前から期待感を高める仕掛けとして、JR両国駅側の1階西側からのアプローチに、現代から江戸への没入感を高める「鳥居」をモチーフとした工作物を設置。ここにはもともと菊竹氏がデザインしたゲート状の工作物が設置されていたので、長く親しまれてきた風景としての印象を踏襲しながら、現代風にアレンジすることを試みたとのこと。館の入口まで来館者を誘導するように連続する工作物は、内側が映像を映し出せる仕様になっています。そこを通っていく来館者は現代の東京から江戸にタイムスリップするトンネルのような演出を体験することができます。

1階西側からのアプローチ

さらに3階の「江戸東京ひろば」では、館のコレクションを感じられる仕掛けが施されています。天井面・柱面を大型のスクリーンとして活用し、収蔵品の映像を投影・紹介することで、展示室に入る前から来館者にコレクションへの興味を喚起させる効果があります。また、美術館・博物館という建物は、どうしても中に入らないと作品を見ることができないような、内側に向かって閉じている建築になりがちであるという傾向を踏まえて、重松氏はこの3階のピロティ空間のポテンシャルを最大限活用することで、内と外を地続きにするような演出を加え、これまでになかった展示体験への新たな誘導空間を実現しました。※映像投影時間は、館のWEBサイトでご確認ください。

6階展示室内におけるイマーシブな空間演出

また、6階常設展示室内では高い天井を活かして大型スクリーンを設置し、現代と江戸の空、四季を再現する映像を投影。季節や時間の流れ、光の変化を感じられる映像を映し出し、来館時の鑑賞体験を高める演出が展開されます。「服部時計店」といった大型模型とも相まって、来館者がまるで映画の主人公になった気持ちを体験できるような没入感を感じていただける空間となっています。

江戸の伝統技術と現代のセンスが融合したエントランス

1階小ホールの前に隣接するエントランス空間の壁は、東京マイスターである左官職人の久住有生(くすみなおき)氏による技術で印象がガラリと変わりました。左官は、江戸時代には三大花形職業ともいわれたほど、江戸の伝統が深く息づく技術でした。脈々と受け継がれる伝統の技を久住氏による現代的な感覚で形にすることで、伝統とモダンが融合した、江戸と現代をつなぐ表現が空間を包み込むようなエントランスが実現しました。

伝統とモダンが融合したエントランス

都民と“ともに”つくる体験を通して江戸東京博物館を身近に

江戸東京博物館の取組や魅力をより身近に感じていただくとともに、リニューアルオープンへの期待感を高めていくため、提案・応募型のプログラムを2つ実施しました。

展覧会アイデアコンクール「わたしのえどはく」

展覧会アイデアコンクール「わたしのえどはく」は、江戸東京博物館に保管されている収蔵資料の中から、自分が気になった資料を選んでもらい課題に応じたアイデアを募集。小学生部門と中学・高校生部門合わせて300点以上の応募がありました。

小学生部門の課題は、選んだ収蔵資料について未来の姿を想像して描くこと。審査は収蔵資料についてきちんと理解できていること、そこからイメージしたアイデアにオリジナル性があること、説明がわかりやすいことを基準に各賞が選ばれました。また、中学・高校生部門の課題は、江戸東京博物館の収蔵資料をつかって展示アイデアを作成すること。審査は展示内容の説明がわかりやすいこと、展示方法に工夫があること、アイデアに独自性があり実現可能性があること、江戸東京博物館の収蔵資料に興味を持てる内容であることを基準に各賞が選ばれました。

フォードT型ツーリングカーや火消の衣装といった実物資料や、浮世絵に描かれた風物や人物から発想されたものもあり、既存の枠組みにとらわれない自由なアイデアから生まれた、収蔵資料の新しい可能性を感じるワクワクする提案が集まりました。いずれも、収蔵資料=鑑賞するものという受け身の姿勢ではなく、主体的に関わろうとする機会を生み出し、自分たちの働きかけによって収蔵資料が生き生きとした活用ができることを実感できる体験になったのではないでしょうか。

各部門の受賞作品の一部は、リニューアルオープン後の江戸東京博物館で展示される予定です(時期未定)。

「えどはく幕の内弁当」アイデアコンテスト

参加者とともにリニューアルオープンを盛り上げるため、江戸東京博物館に行ったら食べたい「幕の内弁当」をテーマにアイデアを募集する企画「えどはく幕の内弁当」アイデアコンテストを実施しました。

幕の内弁当は江戸時代に発祥したといわれており、まさに江戸東京博物館にぴったり。約70作品の応募があり、その中から上位5位までが一次審査で選ばれ、二次審査ではアイデアをもとに実際に調理・再現したお弁当を審査員が試食して、味・見た目・コンセプトなどを総合評価して最優秀賞が決定しました。

最優秀賞に選ばれたお弁当名は「えどはくタイムトラベル幕の内弁当:江戸〜令和」。一食で江戸から令和までの日本の食文化史を旅することがテーマとなっており、日本の食文化の変遷を「食べて学ぶ」体験をひとつのお弁当で実現している点が高く評価されました。

「えどはくタイムトラベル幕の内弁当:江戸〜令和」

最優秀賞を受賞した幕の内弁当は、商品化を経てリニューアルした江戸東京博物館内のレストラン「和ダイニング こよみ」で提供され、実際にお召し上がりいただけます(数量・期間限定)。

より多くの人に江戸東京博物館の価値を届けるとともに、学びを深め広げる機会を拡充

そのほか、大規模改修工事に伴い、7階の図書室が装い新たにリニューアルオープン。開架の図書が従来の約1.5倍増と充実し、江戸・東京や博物館に関する図書を手に取って気軽に閲覧することができます。また、常設展に関する図書コーナーや、小中学生コーナー等も新たに設置され、展示鑑賞体験をさらに深め、広げる場として、ひらかれた学びを提供します

7階の図書室

江戸東京博物館が提供する価値は、館を訪れて展示を体験することだけにとどまりません。来館が難しい人に対しては「えどはく移動博物館」と題して、常設展示室内のテーマに沿ったワークショップや出張授業を展開してきました。より多くの方に江戸東京博物館がもつ知見や資料に触れてもらう機会をつくり、学びの輪を広げていくために、引き続き活動を続けていく予定です。

また、江戸東京博物館が長年蓄積してきた調査研究の成果を共有したり、もっと知りたいという来館者の要望に応えていったりする場として、「えどはくカルチャー」と題する講座事業も引き続き展開していきます。館内で人気の担当学芸員による特別展見どころ講座を開催するほか、江戸・東京を深く知る専門講座や、初心者にもわかりやすい「はじめて」シリーズを開講するなど、多彩な角度から企画を準備しています。

「えどはくカルチャー」の様子

これまでの蓄積を生かしながら、新たなわくわくをつくっていく

江戸東京博物館は、開館以来30年間積み重ねてきた活動や豊かなノウハウを活かしながら、リニューアルを経て、これからも時代のニーズにあったプログラムを提供していきます。訪れるたび、つねに新鮮な学びや発見がある場所でありつづけるために、リニューアルをきっかけに江戸東京博物館を身近に感じ、わくわくする出会いが増えていくことを期待しています。

江戸東京博物館リニューアルオープン〜後編〜へ続く

文:前田真美