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『Shibuya StreetDance Week(以下、SSDW)』は、国内最大規模のストリートダンスの祭典として2015年にスタートしました。幅広い層に支持される新しい芸術文化としてのストリートダンスの確立と、ストリートダンサーの聖地である渋谷から世界へ良質なエンタテインメントを発信し、渋谷をより活力に溢れた街にすることを目指してきました。
2025年11月22日(土)に代々木公園で開催された『SSDW2025』では、2024年にパリ五輪で注目が集まったブレイキンを楽しめる『BREAKING AREA』が新たに誕生したほか、障害の有無に関わらず、多様なダンサーが登場する「インクルーシブショーケース」、バンドの生演奏を交えたダンスバトルなど、ストリートダンスの魅力を様々な角度から体感することができるプログラムが展開され、複数のエリアを行き来しながらダンスと音楽を楽しむ参加者の姿が多く見られました。代々木公園がダンスと音楽で満たされ、会場のいたるところで“多様性”が表現と交流の広がりを生んだ一日の様子をレポートします。
『CHILL OUT SPACE』では、初心者から経験者、またあらゆる世代がダンス・音楽・カルチャーを楽しむエリアとして、一日を通して様々なジャンルのダンスワークショップが開催されました。
まず最初に始まったのが「カポエイラタイム」。カポエイラは、ダンスと格闘技と音楽の要素を持つブラジルの伝統芸能。打楽器とクラップを中心とした軽快なリズムに乗って、戦っているような動きが、しなやかにのびやかに流れるように次々と、しかしゆっくりと連続していきます。「カポエイラ・コンテンポラーネア」と呼ばれる流派をYOKOさんと石橋純さん(Capoeira Batuque Japão)が、「カポエイラ・アンゴーラ」と呼ばれる流派を柴田健児さん(GCAP Japão)が講師となってレクチャー。
2種類のスタイルの異なるカポエイラの基本動作を教えてもらったあと、参加者全員で円になり、ペアをつくって順々にパフォーマンスを体験していきます。相手の動きを見ながら、攻撃を受けたり、流したり、相手に踏み込んだりと、ペアで呼吸を合わせることが求められるので参加者の集中力はかなりのもの。爽やかな汗をかくことができた体験プログラムでした。
続くプログラムはSHUTOさんとRIRIKAさんが講師を務める「はじめてのPopping〜FRESNO under the sky〜」。子供たちを中心に参加者が大きな円をつくり、ポッピンの基礎的なステップ「フレズノ」や「ファーストルーティン」についてのレクチャーを受けました。ビートに乗ってついバウンスしてしまいそうなところを抑えてポップすることに、初めは戸惑っている参加者も見られましたが、次第に動きが一つになって大きなグルーヴに。
「ナチュラルにサイファーが生まれてる!これこそストリートダンスの醍醐味だね!」とSHUTOさん。
最後はみんなでランウェイをつくり、2人ずつ歩きながら踊っていくスタイルに。沿道からの声援にこめられた熱が、ランウェイを進んでいく参加者のテンションを一層高め、身体表現をよりのびやかにエキサイティングに盛り上げていく様子が印象的でした。ストリートカルチャーが潜在的に持つ、仲間をリスペクトする気持ちや自分も相手も肯定する姿勢が体現された空間でした。
子供たちの若いエネルギーが爆発したあとは、少し落ち着いた雰囲気の「New Style Hustle Time」が展開されました。講師はニューヨーク発祥のペアダンスNew Style Hustleを日本に広めるZabuさん。参加者は比較的大人が多めで、ゆったりとした時間が流れていました。
リーダーとフォロワーに分かれて基本の動きをレクチャーしたあと、ペアを組んでルーティンを体験します。目線を合わせ、お互いの力を伝え合って感じ取ることで、言葉を交わさなくても2人で動きをつなげていくのがペアダンスの醍醐味。上手に踊ることはあまり重要ではありません。初めてで動きがぎこちなくなってしまっても、相手の立場になったり、相手を思いやることが、豊かで魅力的な表現に直結します。
最後に『SSDW2025』アンバサダーの1人であるYASSさんが講師の「HIPHOP WORKSHOP」が開催され、経験者を中心にキッズから大人まで幅広い年代の多くの参加者が『CHILL OUT SPACE』に集まりました。
「みんなでつくってるグルーヴに自分も身を任せてノっていくように」とYASSさん。
周りを見て、全体の動きを見て、みんなで盛り上がりをつくっていく意識が大切にされていました。音をしっかり感じながら身体を動かすことの楽しさを参加者それぞれが再確認できるようなワークショップでした。
『RAINBOW STAGE』では、世界を舞台に活躍するゲストダンサーから、渋谷で活動するサークル、スタジオ、社会活動を行う団体など多彩なチームが参加するステージプログラム、さらには次世代ルーキーの育成・発掘を目的とした高校生対抗の「SSDW CONTEST」が開催されました。ステージプログラムの中では、ダウン症のある人のためのエンターテインメントスクール LJ BREAKERS from LOVEJUNXや、障害の有無に関わらず多様なメンバーから成るオトダントーキョーによるパフォーマンスが披露されたほか、「インクルーシブショーケース」として注目の若手ダンサーであるユウシとリクト兄弟を擁するRiMiX SPACEが手話ダンスを交えた特別ショーケースを披露しました。ステージ全体を大きく使い、息ぴったりで勢いのあるパフォーマンスに、会場もひと際盛り上がりました。時々、仲間同士で目線を合わせながら楽しそうに踊る姿に、これまで一緒に練習してきた時間が培った絆と仲間に対する信頼が感じられました。
今年、新たに設置された『BREAKING AREA』では、22歳以下を対象に2人1組になってオーディション形式の予選で16名8組が選抜。本選は対面形式(2対2)で、ブレイキンバトル「U-22 B-BOY / B-GIRL BATTLE」が展開されました。
予選と本選の間のインターバルでは、「U-22 B-BOY / B-GIRL BATTLE」の審査員の1人であり世界的に活躍するブレイカーISSEIさんによる「ブレイキン体験会」が開かれ、初心者から経験者まで幅広く、子供たちを中心に参加者が集まりました。
ブレイキンの動きの一つである「アップロック」の練習では、「最初はグー、じゃんけんぽんのリズムでステップを踏んでみて」とISSEIさん。初めてブレイキンに触れる人でもわかりやすいように、身近な例で説明してくれる様子が印象的でした。
ブレイキン経験のある参加者からは、「ステップの基礎をおさらいできてよかった」という感想が出た一方で、初めてのブレイキン体験者からは、「難しかったけれどやってみると楽しくて参加してよかった」という感想があり、経験の有無を問わず、ブレイキンの魅力を知り興味を持ってもらえる体験会となりました。
『BATTLE PARK』では、ストリートダンスのジャンルを問わずダンスのスキル、表現力、オリジナリティを即興で競い合うバトルが行われました。個人戦の「1on1 BATTLE」と団体戦の「3on3 BATTLE」が同時に進行。今年も白熱の戦いが繰り広げられました。「1on1 BATTLE」では、サイファー形式の予選で本選進出者が選抜されるスタイル。経験の有無も年齢制限もなく、小さい子供から大人まで気軽に参加できるオープンなバトルスタイルだけに、誰が選ばれていくのかを見守るだけでもわくわくする予選でした。
「3on3 BATTLE」では、チームワークが求められる団体戦だからこそ、チームの個性と個性がぶつかり合う戦いが印象的でした。縦横無尽にフィールドを使い相手を圧倒するバトルスタイルを通して、ストリートダンスならではの迫力を体感できる場となっていました。
『BREAKING AREA』『BATTLE PARK』ともに、決勝戦は『RAINBOW STAGE』に舞台を移します。インストゥルメンタルHIPHOPバンド DA-Dee-MiXによるバンドの生演奏をバックに勝負が展開。
『BREAKING AREA』の決勝戦は、タコスクアッド対Nova Sista。お互いに一歩も譲らぬ勢いで相手を圧倒しあった戦いを経て、タコスクアッドが勝利を手にしました。審査員の朝美さんからは「惜しくも優勝を逃したNova Sistaは、B-GIRLがここまで対等に戦えることを見せてくれたのが素晴らしかった。こうして屋外でバトルができて、ブレイキンの魅力が多くの人に伝わったと思う!」と参加者を称える総評が伝えられました。
『BATTLE PARK』の「1on1 BATTLE」と「3on3 BATTLE」はいずれもテーマに沿ったダンスバトルです。スキルだけではなく発想力や表現力も重視され、ダンサーのキャラクターや個性がいっそう発揮される面白さがありました。
「1on1 BATTLE」の決勝戦はJay-K対Maulhy。“雨”と“蛇”という2つのテーマバトルを経て戦いを制したのは、Jay-Kさん。
「3on3 BATTLE」の決勝戦はCHIP CHOP対SKS。“バスケットボール”、“料理”、“嵐”の3つのテーマバトルが展開され、CHIP CHOPに軍配が上がりました。
決勝戦の締めくくりは審査員を代表して世界さんが会場にメッセージを。「何もなくても音楽にノって揺れて楽しんで盛り上がってイェーイってつながっていけるところがダンスの魅力。今日みたいなイベントに気軽に参加して、もっとダンスの盛り上がりが広がっていくといいなと思っています」
イベントの最後は、全員が『RAINBOW STAGE』に集まってテーマソングに合わせてアンバサダーや出演者、来場者が一体となって踊る参加型プログラム「DANCE WITH music」。『SSDW2025』アンバサダーを務める、世界さん(EXILE/FANTASTICS)、UNOさん、YASSさん、龍さん(REAL AKIBA BOYZ)がステージに集結。彼らに続いて、各エリアで審査員や講師を務めたダンサーや出演者が続々とステージにあがります。
決勝戦から引き続きテーマソングの演奏もDA-Dee-MiX。演奏が始まると、様々なジャンルのダンサーが入れ替わり立ち替わりリードをとって、ダンスをつないでいきます。1人で、2人で、みんなを巻き込んで、とスタイルも自由。一見混ざり合わないようなジャンルのダンスが相乗効果を発揮しあって、会場の盛り上がりを高めていく様子が刺激的で、『RAINBOW STAGE』に集まっているあらゆる人がステージの上も下も関係なく、心から楽しんでいました。
世界さん「楽しかったですかー!また来てくれますかー!」
YASSさん「青空の下で踊れる機会は最高でした!みんなもぜひダンスを楽しんでください」
龍さん「踊りながらわいわいお互いを褒めあって讃えあう関係性やマインドがストリートダンスの最高なところだと思います」
UNOさん「はじめましての人にもたくさん出会えて、これまでの仲間の繋がりも感じられて、みんなで一日踊れて楽しかったです!また会いましょう!」
プログラムを通して、多くの参加者がダンスと音楽の溢れる空間にどっぷりと浸かりました。自分たちの身体の動きや気分の高まりを感じる心に改めて気づき、仲間と共に音に乗り分かち合う時間を愛したい気持ちも湧き上がってきました。会場のいたるところでSSDWが10年の時間をかけて紡いできた参加者同士の縁や絆を感じ、新しい試みがもたらした裾野の広がりや表現の多様性を知ることもできました。
文:前田真美撮影:Yoshihiko Matsumoto
「Shibuya StreetDance Week 2025」