このウェブサイトではサイトの利便性の向上を目的にクッキーを使用します。ブラウザの設定によりクッキーの機能を変更することもできます。サイトを閲覧いただく際には、クッキーの使用に同意いただく必要があります。

アーティストと一緒につくる楽しさに触れる「START Box 白鬚 夏休みこども制作ワークショップ」

事業リポート

若手アーティストに制作・交流・発表の場を提供し、継続的な活動を支援する「START Box」。利用しやすい料金でアトリエを貸し出しています。2023年に開設した笹塚・幡ヶ谷の水道道路沿いの都営住宅の空き店舗を活用した「START Box ササハタハツ」を皮切りに、お台場の東京都住宅供給公社の空き店舗を活用した「START Box お台場」、そして2026年に墨田区堤通の都営白鬚東アパートの空き店舗を活用した「START Box 白鬚(しらひげ)」と、都内に拠点を増やしてきました。

施設を利用するアーティストに対しては、個別の創作活動の支援にとどまらず、地域やアーティスト同士の交流の機会や、作品発表の場などをあわせて提供しています。これまで「オープンアトリエ」と題して、アトリエを開放しアーティストと交流できる機会を年に数回企画してきましたが、2026年7月には白鬚で「START Box」初の試みとして「夏休みこども制作ワークショップ」を開催。夏休み期間に合わせて、普段アーティストが制作・活動を行っているアトリエに子供たちを招き入れ、2日間で3つのワークショップを通して、アーティストと一緒に制作を行いました。

「START Box 白鬚」アトリエ(撮影:中山裕貴)

ワークショップ①「世界に一つのすみだがわ染グッズを作ろう!!」―絞り染め―(講師:石井 亨)

染色家の石井亨さんのアトリエでは、アトリエがある墨田区の水(水道水)を使った絞り染めに挑戦!世界でたった一つのトートバッグづくりに取り組みました。石井さんはこれまで、ニューヨークやロンドンでも現地の水を使った染色を試みてきたそう。「その土地の水によって、同じ染料を使っても染まり方が全然違うので、墨田区の水だとどうなるのか、みんなで楽しみながらやってみましょう!」と子供たちに呼びかけます。

染色家・石井亨さん

まずは、染色のイメージを掴むために半紙と色水を使った「折染め」をやってみることに。折り方もどんな色水を選ぶのかも、子供たちの自由。色水に浸すときも、角だけにちょんちょんとつけてもいいし、どっぷり浸してもいい。試してみるうちに次はどんなふうにしてみようかとのめり込んでいき、何枚も何枚も作品を生み出していく子供たちの姿が印象的でした。

色水で染めた半紙を広げた様子
広げた半紙はアトリエの外で日光に当てて乾かす

そしていよいよワークショップのメインである絞り染め。アメリカの画家 ジャクソン・ポロックから着想を得た「ドリッピング」(ポロックが用いた、キャンバスに絵具などの塗料を缶や筆から滴らして描く技法)と絞り染めを掛け合わせた「絞りドリッピング」で、オリジナルのトートバッグを作ります。

染料をつけたくない部分を輪ゴムで縛っていき、塩水にしばらく浸けた後、赤・黄・青の3色の染料を上からかけていきます。

まずはトートバッグを塩水に浸ける
どんな模様になるか想像しながら染料をかける

子供たちは「どんなふうになるんだろう?想像できない」と言いながら、ドリップの量やかける場所にこだわって、自分の作品づくりに集中。

「絞り染めの職人でも、出てくる模様を正確に予測することはかなり難しい。偶発的なデザインの面白さが絞り染めにはあるんだよ」という石井さんの言葉を受けて、子供たちも自分たちの作品の仕上がりに期待が高まっている様子でした。

ワークショップ②「ハーモニーを描いてみよう!」―色鉛筆絵画―(講師:佐藤萌々子)

佐藤萌々子さんのアトリエでは、色鉛筆を使って「ハーモニー」を描くワークショップを開催。まずは集まった子供たちと一緒に「ハーモニーってなんだろう?」というところから考えてみます。鍵盤を使って音が重なりあう・響きあう感覚をみんなで共有したところで、「音と同じように、色の重なりあいからも、色が響きあってさまざまな感情が生まれてくることを感じてみましょう」と佐藤さん。

アーティスト・佐藤萌々子さん(撮影:中山裕貴)

佐藤さんは、色鉛筆で日常の風景をモチーフに色や光、形を観察しながら画面上に再構成する作品制作を行っているアーティスト。ワークショップでは、自身が日頃制作に使っている色鉛筆をはじめとして、一般的な色鉛筆だけでなく、芯の柔らかいものから、芯が硬いもの、蛍光色のもの、海外製のものなどを子供たちに実際に触ってもらうことで、違いを感じたり、新しい表現を発見したりするための助けになるような声がけをしていました。子供たちにとっては、普段触る機会が少ない画材もたくさんある中で、気に入ったものを選んで組み合わせていくことに心躍る感覚が芽生えた様子。

バリエーション豊富な色鉛筆を手に取る子供たち(撮影:中山裕貴)

いつの間にか、隣で付き添っている保護者も夢中になって、子供も大人もそれぞれが制作に集中して取り組むように。親子でお互いの作品をのぞきあったり、画材を交換したりしながら、「色を混ぜてみたら綺麗になったよ!」「塗ってみたら、思っていたのと違う色が出てきた!」「弱く塗るのと強く塗るのとで違う色みたいだね」など、さまざまなコミュニケーションが生まれていました。

保護者も子供たちもそれぞれの作品づくりに集中(撮影:中山裕貴)
好きな色を使ってハーモニーを描く(撮影:中山裕貴)

「色鉛筆って身近な画材だけれど、色の組み合わせや塗り方で表現の可能性が広がることを体験してもらえたと思います」と佐藤さん。出来上がった作品を見せあいながら、参加者同士の会話が広がっていく様子も印象的でした。

ワークショップ③「木炭で描く、大きな植物」―木炭デッサン―(講師:ノセユイ)

特徴的な形の大きな植物や華やかで個性的な花で子供たちを迎え入れたのは、植物と執心、生命力をテーマに絵画制作を行うノセユイさんのアトリエ。木炭を使って大判の画用紙に植物を描いてみるデッサンワークショップが行われました。参加者全員、木炭を触るのは初めて!とのことで、初めは木炭の持ち方からレクチャー。

アーティスト・ノセユイさん(撮影:中山裕貴)

「気になる植物は近くに行って触ってみて。葉っぱの裏側の感触や、葉っぱの分厚さ、木の幹のざらざら感など、触ると描くイメージを持ちやすいよ」というノセさんの声がけをきっかけに、子供たちの姿勢がぐっと前のめりになり、観察する力が引き出されていきます。同じ対象を描いていても、全体を大きく捉えて大胆に描いていくやり方もあれば、細かい部分を徹底的に描き込んでいく手法もあり、対象へのアプローチの仕方には子供たちの個性が滲み出ていました。

どんな感触かな?と触ってみる(撮影:中山裕貴)

「木炭は、一度描いた線は消してもぼんやり残るのが特徴で、その影で深みのある表現になったりするんです。最初はそれに戸惑ったかもしれませんが、慣れてきてみんな2枚目・3枚目とどんどん描いてくれて嬉しかったです」とノセさん。

植物を大判の紙にデッサンしていく(撮影:中山裕貴)
植物を選び思い思いに描いていく(撮影:中山裕貴)

描き上がった絵にはそれぞれサインを入れて、加工スプレーをかけたら完成です。完成した作品とモデルとなった植物とを見比べて、まだまだ探究心が深まっていきそうな表情を浮かべていた子供たちでした。

「START Box」をもっと知りたい!

今回ワークショップを開催した「START Box 白鬚」の「アトリエ」は、アーティストごとに区切られた個室スペースで、冷暖房・水道・トイレ完備。一日中制作に集中できる環境が整っています。もともと店舗だったスペースをリノベーションしている関係で、道に面して全面ガラス張りの開口となっており、自然光が差し込み明るく開放的な空間です。また「アトリエ」からほど近い区画には「稽古場」が4室あり、演劇や舞踊等の舞台芸術分野のための創作活動スペースとして利用されています。鏡がある部屋や、床が板張りの部屋とリノリウムシート敷きの部屋、といったように、用途によって選択できるようにした点も利用者から好評です。

そして、ササハタハツ、お台場、白鬚に続く4つ目の拠点として、2026年10月には「START Box 坂下」が板橋区にオープン。シェアアトリエの形態で、1つの空間を複数のアーティストが共有する点が特徴です。

そのほか、「START Box」では、利用アーティストに発表の場を提供する取り組みの一環として「START Box EXHIBITION」を、現在[8月18日〜23日(I期)、 8月26日〜31日(II期)]の日程で開催中。アーティストトークや公開レクチャーといった関連プログラムを交えながら、アーティスト同士あるいはアーティストと来場者、アーティストと社会との出会いの場となっています。

さらに「START Box 白鬚」でのオープンアトリエを9月20日に、START Boxが出展する「MEET YOUR ART FESTIVAL」が10月9日〜12日に開催予定と、「START Box」の活動や、そこを拠点の1つとして活用するアーティストと触れ合える機会が多数あります。

「START Box」を次世代のアーティストが出会い、育つ場へ

ご紹介してきたように、「START Box」を利用するアーティストたちが、アーティスト同士の交流のみならず、地域の人々や子供たちとの接点を持つ機会を「START Box」としてさまざまなかたちで提供しています。アーティストの活動を身近に感じて、興味を持ってもらうことは、未来のアーティストを育てること、そして私たちの世界を創造的で豊かなものにすることへときっとつながっていくでしょう。

「START Box 白鬚 夏休みこども制作ワークショップ」当日の賑わい

取材・文:前田真美


アーティストの創作環境の整備「START Box」

アトリエ等を確保することが難しい若手アーティストに創作場所を提供し、継続的な活動を支援する、東京都及び公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京の事業です。都営住宅等の空き店舗を活用し、利用しやすい料金で貸し出しています。また地域やアーティスト同士の交流、作品発表の場の提供なども行っています。

アーツカウンシル東京 事業ページ
START Box 公式サイト