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コロナ禍で生まれたリモート演奏のための楽曲も! スペシャル・コンサート 「ボンクリ・フェス2020」後編〈東京芸術劇場〉

「みらい〜老いては子に従え〜バージョン」(大友良英作曲)公演の様子

 

作曲家の藤倉大さんをアーティスティック・ディレクターに迎え、1日を通して新しい音の誕生を体感できる「ボンクリ・フェス2020」。今年は、先鋭的な活動で注目される日本在住のアーティストを集め、東京芸術劇場(以下、芸劇)にて、926日(土)に開催されました。
取材リポート〈後編〉では、後日インタビューした藤倉大さんのお話を交えながら、「スペシャル・コンサート」開催までの道のりと本番当日の様子、そして同会場で夜に開催された「大人ボンクリ」の模様をお届けします。

 

 

アーティストの熱意が注がれる実験の場

ボンクリ・フェスのメインイベントである「スペシャル・コンサート」は、午後2時からコンサートホールで行われました。
総勢17組のアーティストが共演し、その多くが日本初演、世界初演という贅沢なプログラムです。

 

八木美知依(やぎ・みちよ)さんは「水晶の夢」を披露。荒々しい箏の音色と伸びやかであたたかい歌声が、静御前の悲哀とたくましさを物語る

 

ボンクリは、藤倉さんが興味のあるアーティストに依頼し、編成や曲目は出演者に任せられます。アンサンブル・ノマドの佐藤紀雄さんもその一人で、藤倉さんの知らない間に出演者が増えた、出演が決まっていた、ということがよくあるそうです。

1年目から参加している大友良英さんも、既存の曲を提供してもらう予定が、大友さんから新曲の制作と出演の申し入れがあり、さらには本番当日に、別演目の追加出演が決まりました。

「ボンクリが終わった後に、出演者から熱いメールが来るんです。来年参加できるならこういうことをやりたいと。」

藤倉さんのもとには、ボンクリへの出演希望者が年々増え、ボンクリは出演者にとって、ぜひ参加したい、何か新しいことに挑戦したいと思わせる、不思議な魅力を持ったフェスティバルのようです。

 

「サロゲイト-ピアノと打楽器、声のための-」(ハイナー・ゲッベルス作曲)日本初演。低音のピアノとティンパニが断続的に打ち鳴らされ、ダースレイダーさんが短いフレーズを発しながら紙を投げ捨てる

今年5月に逝去された蒲池愛さんの追悼演奏「between water and ray-グラスハープとライブエレクトロニクスのための-」(蒲池愛&永見竜生[Nagie]作曲)。大久保利奈さんがグラスハープを短くリズミカルに鳴らすと、台座が音に合わせて光る

 

大友良英さんは、今年もボンクリのために世界初演となる新曲「みらい〜老いては子に従え〜バージョン」を書き下ろしました。
舞台上に勢ぞろいした管弦楽や雅楽器の演奏家を指揮するのは、13人のノマドキッズたち。子どもたちは、一人または二人ずつ登場しては、跳ねたりしゃがんだり、手を振り足を振り、ステップを踏んで、また舞台袖に消えていきます。その動きに合わせて大人たちが楽器を鳴らすのです。
最後に子どもたちが全員登場し、客席に向かって「大友さーん!」と呼びかけると、1階席の中央から大友さんが立って一礼し、観客も拍手で応えました。

 

ノマドキッズの一挙手一投足に合わせてアーティストたちが奏でる

 

 

アラブ人の日記をもとにした英語の朗読作品「パサージュ」(坂本龍一作曲)は日本初演、日本語版としては世界初演。アンサンブル・ノマドの佐藤紀雄さんが重々しく息を吐き、言葉を紡いでいく

 

 

ディレクターでありアーティスト、そしてチャレンジャー

スペシャル・コンサートの最後を飾るのは、藤倉大さんが作曲した「Longing from afar[ライブ版]」です。もともと新型コロナウイルスの影響で演奏家がおなじ場所に集まることが難しいなか、オンライン越しに合奏することを前提に、音がズレても美しい音楽になるように作曲された曲でした。これを舞台上でパフォーマンスするのは世界初のことです。

 

本番の2週間前、ビデオ会議システム「Zoom」に従来よりも高音質な通信が可能な「ミュージックモード」ができたと聞いた藤倉さんは、芸劇の職員でトーンマイスターの石丸耕一にさっそく相談しました。この新しい機能を活用して、オンラインで演奏に参加するというアイデアが浮かんだのです。

 

藤倉さんと石丸さんとの自宅間でのテストは良好だったものの、それを約2000席のホールで実現するとなると、空間の広さに適った機材が必要となります。芸劇の隅々まで知っている石丸さんとともに毎晩のように実験を重ね、音質をキープしたままホール仕様で出力できるようになったのです。ぎりぎりの時間のなかで調整を重ねた末に、藤倉さんもロンドンからリモート演奏で参加するという世界初も加わり、初めて尽くしの公演が実現することになりました。

 

藤倉さんは右耳ではビデオ会議の音声、左耳からは客席に座っている石丸さんの状況報告を聞きながら参加

 

 

演奏は、まずステージの両側から管楽器奏者が楽器を吹きながら入場、弦楽器、雅楽器、ピアノと打楽器、鈴を鳴らすノマドキッズと続き、最後に藤倉さんのピアノ演奏が加わりました。

それぞれ別のメロディーを奏でていた演奏者たちは、次第に同じ旋律を演奏しはじめ、豊かなハーモニーで会場内を満たします。一つになった音は震えたり鳴り止んだりを繰り返して、演奏は終了しました。
(「Longing from afar」の演奏の模様は、動画でもご覧になれます。)

 

管弦楽や雅楽器から、鈴や紙を擦る音、子どもたちの声までもが楽器となり重なり合う

 

 

そして、「スペシャル・コンサート」と同じ会場で行われるのが、ボンクリ・フェスの最後の演目「大人ボンクリ」です。スペシャル・コンサートのチケットで楽しめる、演奏者不在、入退場自由のコンサートでは、午後7時の開演から午後9時の閉幕まで、ゆったりとくつろぎながら電子音楽を楽しめます。Nagieさん が担当した音響は、耳のすぐそばで音の振動を感じられるほど臨場感がありました。

こうして、日本のアーティストによる最先端のその先、生まれたての音や音楽に触れる「ボンクリ・フェス2020」は幕を閉じました。

 

会場内は曲調に合わせてライティングが変化し、曲の世界観に没入できる。 (照明デザイン:新島啓介)

 

ボンクリで見出したコロナ以後の音楽の可能性

ボンクリは4年目になりますが、藤倉さんが来日しなかったのは今年が初めてでした。藤倉さんの芸劇への信頼から運営面での心配はなく、藤倉さん自身、若い頃から自分の居住地以外の委嘱が多かったため、オンラインでのミーティングやリハーサルには慣れていました。

藤倉さんは今回、新しい試みとして、スタッフのスマートフォンからウェブ会議システムをつないで館内を回り、ボンクリをリモートで見届けていました。すべての部屋を中継して鑑賞するのではなく、動き回り、出演者や来場者と言葉を交わすことで臨場感を感じられ、本当にそこにいるような体験だったと言います。
藤倉さんは芸劇について、「硬派なイメージですが、実はボンクリのような実験的な音楽を趣味とする職員が意外に多い」と評します。アーティスティック・ディレクターの藤倉さんと出演者、そして運営する芸劇の連携があるからこそ、新しい音楽の価値を提供する「ボンクリ・フェス」が続けてこられたと言えるでしょう。

 

藤倉さんはボンクリ会場をリモートで回遊(藤倉さんのTwitterより)

 

 

東京芸術劇場では全国公立文化施設協会、クラシック音楽公演運営推進協議会のガイドラインに則って新型コロナウイルス感染予防対策を行っています。

ボンクリ・フェスをプロデュースした芸劇の鈴木順子事業企画課長によると、今回は特に、舞台上のマスク着用に関しては、マスクをすることで作品性やパフォーマンスを壊してしまわないか、出演者とも検討して決めていったと言います。そして、これからの音楽制作や公演について、「より安全対策に努めて、来年は子どもに向けた企画をつくりたい」と抱負を語ります。
藤倉さんも「コロナ禍のボンクリを経験したことで学んだことは多い。音楽のつくり方はより良くなっていくのではないか」と、希望を語りました。

今後も「ボンクリ・フェス2020」で体感したような、心を解放する新しい音の誕生、音楽づくりの進化に期待できそうです。

 

Text:浅野靖菜
写真:東京芸術劇場

 

◆ボンクリ・フェス2020

【開催日】2020926 () 10:50-21:00

【場所】東京芸術劇場

URLhttps://www.borncreativefestival.com