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新しい音と出逢える一日 「ボンクリ・フェス2020」前編〈東京芸術劇場〉

 

「ボンクリ・フェス」は、子供から大人までが新しい音に触れ、管弦楽や雅楽、電子音楽といった多彩な音楽を楽しめるフェスティバルです。今年も926日(土)、東京芸術劇場(以下、芸劇)にて「ボンクリ・フェス2020」が開催されました。
取材リポート〈前編〉では、コンサートやワークショップなど、1日を通して行われた主な演目をご紹介します。

 

日本発のクリエイティヴな音楽

「ボンクリ」は「ボーン・クリエイティヴ(Born Creative)」の略で、アーティスティック・ディレクターを務める作曲家の藤倉大さんが、「人間は皆、生まれつきクリエイティヴだ」という意味を込めて命名しました。2017年から国内外のアーティストを迎えて毎年開催され、今年で4回目を数えます。

 

藤倉さんによると、今年は新型コロナウイルス感染拡大を受け、6月下旬の段階で、来日予定だった海外アーティストのプロジェクトは来年に先延ばしになったものの、中止にする意向はなく、海外アーティストが来ないことに対する不安はまったくなかったそうです。ロンドン在住の藤倉さんにとって、日本は外国という意識で、「日本に来たら日本の音楽を聴き、刺激を受けたい」という感覚があったからです。

 

幸いだったのは、ボンクリに求められるのは「赤ちゃんから大人まで楽しめる新しい音」という条件だけで、また早い段階で予定を決めすぎなかったこともあり、柔軟にプログラムを組み立てていくことができました。

 

参加者とスタッフはマスクやフェイスガードを装着。ホールや各部屋の入場時には検温と消毒を行う。

 

参加者の入退場ごとに備品の消毒をするなどの対策を徹底した

 

誰でも楽しめるプログラムも充実

「ボンクリ・フェス2020」のプログラムは、メインの「スペシャル・コンサート」を中心に、誰でも参加できる無料プログラムと、有料プログラムに分かれています。

 

午前10時50分、吹き抜けのあるアトリウムで、劇場の総合案内とチケット販売を行う1階のボックスオフィス上がステージとなる「アトリウム・コンサート」(無料)から、「ボンクリ・フェス2020」は始まりました。

箏奏者の木村麻耶さんが演奏するのは、藤倉大さん作曲の「Yuri(ゆり)―二十五絃箏のための―」。二十五絃箏は、通常の箏の2倍近くの弦がある1991年に開発された新しい楽器です。

 

二十五絃箏を演奏する木村麻耶さん

 

午後1時には、尺八奏者の藤原道山さん尺八アンサンブル「風雅竹韻」が、2階の通路からウインド・チャイムをシャリン、シャリンと鳴らしながら登場。深く心地よい尺八の音色がアトリウム内に響き渡りました。

その後も、東野珠実さん(笙)山田文彦さん(篳篥)本條秀慈郎さん(三味線)による邦楽演奏が続き、芸劇の地下1階から池袋駅をつなぐ連絡通路の利用者も足を止めて聴き入っていました。

 

ボンクリは初回から邦楽のアーティストを起用していますが、今年は特にユニークな邦楽アーティストを多く紹介するプログラムになりました。ボンクリをきっかけに若い邦楽家からの依頼が年々増え、これまでの交流の輪が広がっていった結果と言えます。

 

尺八を演奏する藤原道山さん

 

室内に流れる音楽を鑑賞する「電子音楽の部屋」「大友良英の部屋」、「藝大COIの部屋」も無料で楽しめるプログラムです。

その1つ、「藝大COIの部屋」では、東京藝術大学COI拠点 インクルーシブアーツ研究グループの手掛けた、さまざまな音楽体験を楽しむことができました。

室内に入ると、壁や床に「メーメー」「のしのし」といった動物の鳴き声や擬音語が貼られています。これは「ARこの音なあに?」の仕掛けです。動物の鳴き声や擬音語にタブレットを向けると、その音に合った動物が浮かび上がります。
だれでもピアノ」は、ピアノの鍵盤を押すと、自動的にAIが伴奏をはじめます。今回は、藤倉さんが作曲したパターンがプログラミングされ、だれでも現代音楽風にアレンジされた「きらきら星」を演奏することができました。

 

タブレットを 「のしのし」のシートに合わせると、ゾウが登場

 

子供も大人も夢中になれる「だれでもピアノ」

 

アーティストの想いが詰まったワークショップ・コンサート

スペシャル・コンサートの参加者限定の有料プログラム(500円)として行われたのは、アーティストによるワークショップ・コンサート「トーンマイスター石丸の部屋」「箏の部屋」「尺八の部屋」「ノマドの部屋」です。

 

ワークショップ・コンサート「尺八の部屋」。客席は十分に間隔を空けて配置されている

 

トーンマイスター石丸の部屋」は、芸劇の職員で舞台芸術の音響を手がける石丸耕一による、さまざまな効果音をつくり出す音の研究所。テーマは、日本のアニメーションの効果音に影響を与えた、ドイツの作曲家カールハインツ・シュトックハウゼンの電子音楽です。

シュトックハウゼンが用いた電子音を再現するためにトーンマイスター石丸が用意したのが、建築物の点検に使用する電気計測機と、テープが剥き出しになったオープンリールテープレコーダーです。電気計測機のピーという音をテープレコーダーで録音し、助手の愛ちゃん(関根 愛さん)がテープをスクラッチする(手で回す)と、グググ、グオン、キュルルと音が変化しました。
参加者は、このテープのスクラッチと、金属製のオルゴールボール、水音を奏でるウクライナの楽器ストルモックを体験。最後には、3人の参加者と、「宇宙の音楽」を即興で演奏しました。

 

「変なドクター・石丸」(左)と「変な助手・愛ちゃん(関根 愛さん)」(右)。参加者は真新しい手袋をつけて楽器を体験

 

ノマドの部屋」は、時代やジャンルを超えて斬新な演奏を展開するアンサンブル・ノマドによるコンサートです。

「ねじの詩」(カローラ・バウクホルト作曲)は、箏奏者の木村麻耶さんによる「アッ」「オー」といった情熱的な声とともに、ブラシを擦る音、新聞紙を破く音、座布団を叩く音などが忙しなく繰り出される、なんとも不思議な一曲です。
「カミング・トゥギャザー」(フレデリック・ジェフスキー作曲)では、三味線奏者の本條秀慈郎さんラッパーのダースレイダーさんが参加。ビートを刻むような演奏の時々に、ダースレイダーさんの力強い声で短いフレーズが入ります。エネルギッシュな演奏は圧巻の迫力でした。

 

「ねじの詩」の演奏の様子

 

今年のボンクリ・フェスでは、日本の演奏家、日本の伝統楽器がフィーチャーされ、日本で生まれた新しい音の数々を体感することができました。また、近距離での生演奏に人間の声も加わり、身体性を感じられるプログラムでした。

取材レポート〈後編〉では、メインの「スペシャル・コンサート」と「大人ボンクリ」の様子を、藤倉大さんへのインタビューを交えてお届けします。

 

Text:浅野靖菜
写真:中川周

                                   

◆ボンクリ・フェス2020

【開催日】2020926 () 10:50-21:00

【場所】東京芸術劇場

URLhttps://www.borncreativefestival.com