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「学校と文化施設をつなぐティーチャーズプログラム2017」東京芸術劇場編

  • 2017.10.01

当財団では、毎年夏休みの時期に、都内小中高等学校、特別支援学校の教員の皆さまを対象に、都立文化施設の教育普及事業を実際に体験していただく、「学校と文化施設をつなぐティーチャーズプログラム」を実施しています。今年も6つのプログラムを実施しました。今回は、その中の1つである東京芸術劇場の「ワークショップ事業」をご紹介します。(2017年8月4日開催)   教育現場で注目を集める、「演劇ワークショップ」とは   今、アクティブ・ラーニングの普及にともない、教育現場では演劇ワークショップが注目を集めています。コミュニケーションスキルとなり、子どもたちの表現力を養うことができる「演劇」とは、どういう手法なのか? 教育者を対象に、ワークショップ体験をまじえて紹介する本プログラムをレポートします。 この日、東京芸術劇場のシンフォニースペースに、都内の小中高校および特別支援学校から20人の教師が集まりました。講師をつとめるのは、演出家で演劇ワークショップのファシリテーターとしても活躍している、NPO法人PAVLICのわたなべなおこさんです。

「今日は先生方に、実際に学校で子どもたちに行っているワークショップを体験してもらいます。まず、アイスブレイクとしていくつかのゲームをしましょう」とわたなべさん。最初は、じゃんけんゲームから。毎回違う相手とじゃんけんをし、5勝できたら早抜けします。「よーい、スタート!」の合図とともに、先生方はさっそく相手を見つけてじゃんけん。あちこちから「あー!」という歓声が聞こえてきました。次は、指定された人数ですばやくグループをつくる仲間探しゲーム。この日、初めて顔を合わせた先生方でしたが、ふたつのコミュニケーションゲームを経て、緊張していた表情もゆるみ、リラックスした雰囲気になってきました。  

その次は、あやつりゲーム。2人一組になり、片方が相手の顔の前に手をかざし、もう片方がその手について動きます。予想不能な動きは、「風呂をのぞこうとしている人や、世界を操る神に見えた人もいますね」とわたなべさん。そして無意識の動きが、いつのまにか「表現」になっていることに気づきます。 アイスブレイクの最後は、カウントアップゲーム。3つのチームに分かれて円をつくり、ひとりずつ0、1、2、3とカウントしていき、50がゴール。つっかえたり間違えたりせず、いかに早くカウントできるかを競います。目標に向かうことでチームの結束も高まり、白熱した争いになりました。   表現したい気持ちと仲間がいれば、短時間で演劇は作れる

そして、いよいよメインコンテンツへ。お題を身ぶり手ぶりで表現して、見ている人に何の動きか当ててもらうジェスチャーゲームです。動きや段取りを相談したあと、3つのチームが「雪合戦」「お花見」「クリスマス」というお題にチャレンジしました。

1組目<雪合戦>

2組目<お花見>

3組目<クリスマス>

「3チームともすばらしかったです! 〈雪合戦〉は最初は無邪気だったのが、対戦がはじまると空気が変わって熱戦になるのがドラマチックでした。2組目は会社の〈お花見〉ですよね。新人が場所取りして、あとから社長らしき人が現れる、人間関係も見えました。最後の〈クリスマス〉は空間を上手に使っていて、トナカイのソリが空を飛んでるようでファンタジックでした。ゲームとしてはじめた創作でしたが、どれもドラマになっていた。これが演劇なんです。演劇は大変、というイメージがあるかもしれません。でも、こうして表現したい気持ちと仲間がいれば、短い時間でもおもしろい演劇が作れるんです」   主体的に動けるためのキーワード、「Yes, and」  

その後、「振り返り」でワークショップの感想を参加者同士で語り合い、体験したことを自分の中で整理。それから、ファシリテーションの考え方についてレクチャーがありました。 「ファシリテーターと教師の一番の違いは〈教えない〉ということです。その代わり私たちは、参加者が主体的に動けるように、一緒に悩んだり、ときには突き放したりします。実はこれは、普段私たちが人と関わるときに自然にやってることなんですね。それを意識的に行うのがファシリテーションなんです。なかでも私たちが大切にしているのが、〈Yes, and〉という考え方です。たとえば小学校の図画工作の時間に、生徒が〈海の色を紫色にしたい〉と言ったとします。そこで〈紫色なんてヘンだよ〉と否定せず、〈そうなんだ=Yes〉と一回受けとめて、〈なんで紫色にしたいの?=and〉と理解するための言葉を返す。そうして、寄り添って考えることを大切にしています。学校の中でも、このファシリテーションの考え方を有効に使っていただけたらと思っています」  

  以上で、本日のプログラムはすべて終了。身体を動かしたり、頭を使ったり、みんなで笑ったり。子どもたちと同じワークショップを体験しながら、演劇や表現を体得した2時間でした。参加した先生方からも、「表現が苦手な子どもも楽しめそう」「授業や生徒指導のヒントがたくさんあった」「ファシリテーターの視点や声かけの方法を学校生活で活かしたい」など、手応えを感じる意見が寄せられました。演劇を使ったコミュニケーションスキルや、ファシリテーターによる柔軟な発想力。それらが、必要としている先生や子どもたちに届けば、教育の現場に新しい風を吹かせることができそうです。

「ティーチャーズプログラム」 東京芸術劇場 ワークショップ事業

東京芸術劇場による、教育者向け演劇ワークショップ。コミュニケーションを活性化させることにより青少年たちの表現力を養い、自尊心も高めることができる「演劇」という手法はどういったものなのか、体験を交えてご紹介します。