芸術文化による共生社会の実現に向けた“新たなコミュニケーションのあり方”を創造する「だれもが文化でつながるサマーセッション2023」が、2023年7月29日(土)〜8月6日(日)、東京都美術館で開催されました(主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京)。昨年度行われた国際カンファレンス「だれもが文化でつながる国際会議」を受け、今年は「アクセシビリティと共創」をテーマに設定。様々な分野の専門家やアーティストを招き、文化施設での取り組みや最先端テクノロジーの活用などについて【トークセッション】【レクチャー&ワークショップ】【展示】【パフォーマンス×ラボ】が行われました。ここでは、8つのトークセッションから、特に“共創”にフォーカスしたセッション1「文化的『社会的処方』と共創の場」、セッション8「共創するとは何か〜文化的実践を通じて〜」に焦点を当ててレポートします。
【セッション1】「文化的『社会的処方』と共創の場」
伊藤達矢(東京藝術大学社会連携センター 特任教授。副センター長。「『共生社会』を創るアートコミュニケーション共創拠点」プロジェクトリーダー)
稲庭彩和子(独立行政法人国立美術館 国立アートリサーチセンター 主任研究員)
中野敦之(神奈川県民ホール 館長付 事業課員)
モデレーター:森司(アーツカウンシル東京 事業部事業調整課長)
セッション1では、東京都美術館と東京藝術大学と市民が連携する「とびらプロジェクト」など、2011年から10年間にわたり「アートを介してコミュニティを育むソーシャルデザインプロジェクト」を行ってきた伊藤達矢さんと稲庭彩和子さんを中心に、イギリスではすでに行われている、保健医療システムと芸術文化が協力し、アートを処方する「文化的処方」について解説。日本でどのような文化的展開や共創の場が可能か、日本における国や大学での構想と始動について発表しました。
イギリスでは、望まない孤独・孤立などその人の置かれている社会的状況が病気の一因となっている患者に対し、薬の処方箋を出すのではなく、人との関わりが生まれる地域資源と繋がる処方箋を出す、これを「Social Prescribing(ソーシャル・プリスクライビング)」と呼び制度化しています。医療者と当事者の間をつなぐ非医療者の専門職である「リンクワーカー」が当事者の話をよく聞き、その人に合ったサークル活動やミュージアムのプログラムなどに繋げ、人との関わりや地域コミュニティと繋がることができるように橋渡しをします。このイギリスでの実践を参照しつつ、日本でもアートや文化を介し望まない孤独や孤立を防ぐ「文化的処方」と名づけた取り組みを始めるところです。
まず東京藝術大学の伊藤達矢さんは、同学で今年度(2023年)4月にスタートした「『共生社会』をつくるアートコミュニケーション共創拠点」を紹介。国立科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」に採択された事業で、超高齢社会における望まない孤独や孤立の問題に取り組んでいます。当事者をクリエイティブな体験やレジリエンスの高い地域の取り組みにつなげるために、アートが接着剤のような役割となり、医療機関、福祉機関、テクノロジー、コミュニティのネットワーク、自治体、海外の研究機関、NPOなど39の拠点と連携。一人ひとりに合ったケアと社会参加のデザインをともに考える仕組みづくりを行っていきます。「2030年以降のNEXT SDGsを見据え、これから開発されるサービスやテクノロジーが人を本当に豊かにするのか、“こころ”の部分まで考えていきたい」と展望を述べました。
続いて稲庭彩和子さんは、いかにアートが人々の健康やウェルビーイングに良い影響を与えるか、イギリスの超党派の議員連盟が調査した「クリエイティブヘルス」の報告書を紹介しました。2023年3月末に新たな部門として国立美術館の本部内に発足し稲庭さんが主任研究員を務める「国立アートリサーチセンター」でも「健康とウェルビーイング」という事業が始まり、1月にイギリスで行ったリサーチから、特に貧困や高齢化といった社会課題を抱えるマンチェスター市立美術館の分館であるプラット・ホールの実践を例に挙げました。