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リアルとオンラインで、東京都コレクションを鑑賞しよう! 東京都美術館 「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」

桑原甲子雄 《下谷区上野駅(台東区)》  1936(昭和11)年  東京都写真美術館蔵

 

公益財団法人東京都歴史文化財団では、東京都の財産である都立文化施設の収蔵品を「東京都コレクション」として捉え、ミュージアムでのリアルな展示とオンライン・データベースでの鑑賞を相互補完することで、誰もが簡単にコレクションを楽しめる環境の整備を進めています。

 

東京都美術館では、2013年以降「東京都コレクション」を活用した展覧会を毎年開催しており、2021年度は11月17日から「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」(~2022年1月6日まで)を開催しています。

 

同展覧会では、1926年の開館以来、公募展会場として重要な役割を果たしてきた東京都美術館がある〈上野〉という土地に着目し、東京都江戸東京博物館、東京都写真美術館、東京都現代美術館の収蔵品等で、幕末から昭和までの上野の姿をたどる内容となっており、これと連動して、「Tokyo Museum Collection:東京都立博物館・美術館収蔵品検索」(略称:ToMuCo)では、「上野公園」をキーワードにデジタル画像を紹介するオンライン展示を同時開催しています。(~2022年1月6日まで)

 

どちらも無料でご覧いただけますので、この機会に、東京都美術館とToMuCo、ふたつの場所で、上野の歴史をたどってみませんか?

 

[展覧会]「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」(東京都美術館)

 開催期間:2021年11月17日~2022年1月6日(※2021年12月6日、12月20日~2022年1月3日は休館)

 

美術館や博物館、動物園が集まる上野公園は、かつては徳川幕府から厚い庇護を受けていた寛永寺の敷地でしたが、さまざまな経緯を経て、現在は文化の集積する場所になっています。この展覧会では、そんな上野の歩みを、約60点の作品・資料を4章構成で展示し、その歴史を紐解いていきます。

 

 

内国勧業博覧会と上野のにぎわい

第1章展示風景

 

「第1章 戊辰戦争と博覧会の時代」では、幕末から明治維新後の上野をたどります。奈良の吉野山から山桜が植樹された上野の山は、17世紀半ば以降、花見の場所として親しまれ、庶民の憩いの場となっていました。そんなのどかな上野でしたが、1868年に起きた戊辰戦争により、上野の山の大部分を占めていた寛永寺の境内が戦いの場(上野戦争)となり、伽藍の大部分が焼失。その後、1876(明治9)年に跡地を活用した上野公園が開園します。

 

小林清親《内国勧業博覧会之図》1877(明治10)年 東京都江戸東京博物館蔵

 

明治新政府による産業奨励策の一環として、明治10(1877)年に日本で最初の博覧会「内国勧業博覧会」が開催されると、上野公園は、博物館・美術館・動物園をはじめ、競馬場、軽気球飛行の実演ショーなどさまざまな催事に利用され、日本の「近代化」の舞台となっていきました。

 

永島春暁《上野公園風船之図》 1890(明治23)年 東京都江戸東京博物館蔵

 

当時の模様は華やかな錦絵で描写されていましたが、明治後半になると写真が表現の手段として台頭していきます。

 

 

関東大震災と復興、東京府美術館の誕生

浦野銀次郎 《(帝都大震災画報)激震ト猛火ニ襲ハレシ上野広小路松坂屋附近之真景》
1923(大正12)年 東京都江戸東京博物館蔵

 

1923(大正12)年に発生した関東大震災と、その後に起きた火災により、東京は壊滅的な打撃を受けました。上野公園にも多くの人が集まり、避難生活を送っていたといいます。「第2章 関東大震災と復興」では、様々な画報に取り上げられた震災当時の上野から、創作版画集《新東京百景》に収録された復興を遂げた上野まで、短期間の間に大きく変化した上野を見ていきます。

 

逸見享《府美術館[『新東京百景』より]》1931(昭和6)年 東京都現代美術館蔵

 

《新東京百景》は、関東大震災から復興を遂げつつある「現在の東京を後世に遺す事を目的」に企画されたもので、恩地孝四郎や平塚運一ら8名の「創作版画」の版画家による東京を捉えた全100点をおさめた版画集です。創作版画とは、江戸時代までは絵師や彫師、摺師など完全分業で作られていた版画を、原則的に「自画・自刻・自摺」で制作しようとする運動で、大正から昭和にかけて大きく興隆しました。

 

東京都美術館アーカイブズ資料 展示風景

 

また、復興後の1926年、「石炭の神様」と呼ばれた北九州市出身の実業家、佐藤慶太郎が投じた100万円(現在の32億円相当)の寄附によって、日本初の公立美術館として東京府美術館(現在の東京都美術館)が開館しました。当時の建物は、岡田信一郎の設計による中央出入口に連柱を配した近代クラシック様式で、その頃の様子がわかる東京都美術館アーカイブズ資料も合わせて展示しています。

 

1975年には現在の姿となる前川國男設計の新館が建設され、さまざまな美術団体の発表の場として今日まで続く東京都美術館は、2026年に開館100周年を迎えます。

 

 

戦争と上野

林忠彦 《引き揚げ(上野駅)》 1946(昭和21)年 東京都写真美術館蔵

 

そして、戦争の影が上野にも忍び寄ります。「第3章 戦争と上野」では、1930年〜50年代の戦時下・戦後期の上野を取り上げます。

 

戦前より独学で写真を学んだ桑原甲子雄は、戦前期の上野や浅草のスナップ写真を数多く残し、また下谷区(現在の台東区西部)内から出征した軍人の留守家族を訪ね、家族写真を撮影していました。撮影した写真は、2枚プリントされ、1枚は戦地の軍人に、もう1枚は家族に送られたとされています。

 

桑原甲子雄《[出征軍人留守家族記念写真]》展示風景 1943(昭和18)年 個人蔵

 

戦後になると、家族をなくし浮浪児として生活せざるを得なかった子どもたちの姿が上野駅周辺に多く現れ、林忠彦や木村伊兵衛らはその模様を写真におさめていました。桑原や林、木村らの写真、さらに当時のニュース映像や、画家の佐藤照雄が残したスケッチとともに、上野と戦争の関係を改めて考えるきっかけとなる展示です。

 

昭和30年代以降

米田知子 《東京都美術館(ゾルゲ/宮城)―『パラレル・ライフ:ゾルゲを中心とする国際諜報団密会場所』より》 2008(平成20年) 東京都写真美術館蔵

 

ターミナル駅として全国各地から人々が集まる上野は、戦後、高度成長期の波に乗り、常に人が集まる華やかな町となりました。また、東京都美術館に加え、国立西洋美術館、東京文化会館、上野の森美術館などが開館し、文化的な場所として上野はイメージされるようになっていきました。

 

最終章の「第4章 昭和30年代以降」では、1960年代から80年代の上野と人々を捉えた写真と資料で、上野の成長をたどります。本章で取り上げる内藤正敏はホームで列車を待つ女性や、花見をする浮浪者など、活気がありときには影をちらりと見せる多面性を持つ上野の姿をモノクロームの写真で描写しています。そのほか、 戦前~戦時下の諜報活動を題材とする米田知子の写真作品も特別展示し、 消えつつある「戦争と〈上野〉」の記憶を見つめなおします。

 

約160年の歴史のなかで、大きく変貌を遂げた上野。この展示で上野の歴史を知ると、美術館を出たあとの公園の散策もよりいっそう楽しくなるでしょう。

 

 

↓ 担当学芸員が展覧会場をご案内する「ギャラリーツアー」を動画でもご覧いただけます。

 

[オンライン] Tokyo Museum Collection

 

 

 

「Tokyo Museum Collection」(ToMuCo)は、東京都立の6つのミュージアム(江戸東京博物館、東京都写真美術館、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、東京都美術館、江戸東京たてもの園)が収蔵する資料や作品を横断的に検索できるデータベースです。

 

「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」の開催にあわせ、現在、ToMuCoでも「上野公園」特集を展開。だれでも、世界中どこからでも、「東京都コレクション」を鑑賞できるインターネット上の展覧会を2022年1月6日まで同時開催しています。

 

ここでは、東京都美術館では展示されていない作品、歌川広重(3代)《上野公園地御臨幸》(1879年、東京都江戸東京博物館)や、田沼武能《上野公園の花見》(1954年、東京都写真美術館蔵)なども、デジタル化された東京都コレクションとしてご覧いただくことができます。(ToMuCoの「上野公園特集」は、東京都美術館での展示内容とは異なりますので、ご注意ください。)

 

 

「Tokyo Museum Collection」は、「誰もが、いつでも、どこでも」芸術文化を楽しめる環境を整備する「TOKYO スマートカルチャープロジェクト」の一環として、今後も都立文化施設が収蔵する約40万点のコレクションのデジタル化やバーチャル公開に向けた準備などを進めていきます。

 

文化施設でのリアルな鑑賞はもちろんのこと、「Tokyo Museum Collection」を通じてオンラインでも、東京都コレクションにアクセスできるハイブリッドな鑑賞体験を、ぜひ体験してみて下さい。

 

 

 

文:浦島茂世