2019年11月16日、増上寺で開催された「Light and Sound Installation “Coded Field”」
2020年の東京を文化の面から盛り上げるため、東京都歴史文化財団は東京都と連携し、「Tokyo Tokyo FESTIVAL」として多彩な文化プログラムを展開しており、その中核を担うのが「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」です。斬新な企画を広く公募し、2,436件の応募から選ばれた13企画が、2019年秋から2020年夏にかけて順次本番を迎えています。
2019年11月16日(土)、その「Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13」の1つとなる、Rhizomatiks(ライゾマティクス)企画の「Light and Sound Installation “Coded Field”~光と音が織りなす都市と人々の饗宴~」が、東京・港区芝の浄土宗大本山増上寺で行われました。最新の通信技術が光、音楽、ダンスと融合し、彩られた、一夜限りの体験型のインスタレーションの様子をレポートします。
2016年のリオ五輪閉会式やPerfumeのライブ演出などで注目を集めるライゾマティクスは、技術と表現の新しい可能性を探求し、まだ見たことのないモノ・コトを世の中に発表し続けているクリエイター集団。今回彼らが舞台に選んだのは、歴史と伝統ある東京・芝増上寺とその周辺の2つの公園です。
「TokyoTokyoFESTIVALスぺシャル13 プレゼンテーションフォーラム」(2019年8月27日開催)で“Coded Field”について発表するライゾマティクスの真鍋大度さん
ライゾマティクスは、この特別な一夜のために、増上寺の建築と地形のデータをプログラム解析して仮想空間を生成。この仮想空間の中を、最先端の位置測位技術が埋め込まれたバルーン型のデバイスを参加者が持って歩くことで、参加者の位置情報を元に、仮想空間に埋め込まれた様々な情報が実空間で光と音に変換され、参加者自身もアートの一部となって、近未来のTOKYOを作り出すといいます。
2019年11月16日(土)のイベント当日。この特別な一夜に参加できたのは、多数の応募の中から抽選で選ばれた1000組(1組3人まで)。
あたりが暗くなった18時に受付が始まり、1組に1つ、バルーン型デバイスが貸し出されます。
受付で参加者に貸し出されるバルーン型デバイス。 写真提供:ライゾマティクス(左)
参加者に渡されたバルーン型デバイスは、ライゾマティクスが“Coded Field”のために独自に開発したもの。内部にLEDライトが入った大きなバルーンは、ハンドル部分と細いコードでつながっています。ふわふわと漂う大きなバルーンを手にすると、ときどき黄色やピンク、赤など様々な色に光ったり、ハンドル部分から電子音が聞こえたり、これからどんなことが始まるのかとワクワクする気持ちまで膨らみます。
東京タワーのふもとにある増上寺境内に集まってくる、デバイスを手にした参加者たち。
グランドオープンの19時に近づくにつれ、参加者たちはメイン会場である増上寺の本殿前に次々と集まってきました。参加者が持つバルーン型デバイスは、隣り合っていても光や音が異なったり、会場中央のバルーンだけが一斉に同じ色に光ったりと、さまざまな表情を見せます。
境内中央には、車の自動運転に使われる技術を応用した「オムニホイールロボット」にのせられた細長い液晶パネルが数台、ぶつかることなく自動で動いています。動く度に変化する緯度や経度を表す数字が、より近未来な世界を感じさせます。
左:境内を動き回るオムニホイールロボット 右:様々な色に変化するバルーン型デバイス
近年ライブコンサート会場などでは、座席情報などに基づいたペンライトを使った演出が行われていますが、参加者が自由に動く野外イベントなどで同じような演出を行うのは、ほぼ不可能とされてきました。今回、なぜこのような演出が可能となったのでしょうか。
デバイスのハンドル部分には小窓があり、常に動き続ける数字が表示される。
参加者が持つバルーン型デバイスには、IoTシステムでも使われるボードコンピュータが搭載されています。このコンピューターにはGNSS(全球測位衛星システム)とLED、スピーカーが内蔵されていて、位置情報に基づいてデバイスの発する光や音が変化します。さらに、GPSだけでなく日本の衛星測位システム「みちびき(準天頂衛星システム)」を併用することにより、精度の高い位置情報を取得。広い増上寺の境内で参加者の位置や密度を把握し、光と音をコントロールしたインスタレーションが実現しました。
カウントダウンに合わせて、バルーンも統一された色を発し、高揚感が高まります。
グランドオープン1分前となる18時59分、カウントダウンする音声が境内に聞こえると、会場は緊張と期待による高揚に包まれました。そして時刻が19時を回るとほとんどのバルーンが光り、この演出をひとときも見逃すまいとする参加者からざわめきがあがりました。
そして、徐々に音の演出が場内を盛り上がると、ハンドル部分のスピーカーからは、坂本美雨さんの歌声が聞こえてきました。言葉のない不思議なメロディーを歌っているかと思うと、数字を発していたり、坂本さんの美しく透き通った歌声が境内の空気を神秘的に変えていきます。
音楽と同期した光の動きが印象的。ドローンによる空撮も行われました。 写真提供:ライゾマティクス
いよいよクライマックスとなった19時30 分からの30分間。音の演出が華やかさを増したのを合図に、演出振付家のMIKIKO率いる「ELEVENPLAY」のダンサーが登場。和装をアレンジした白い衣装を身に纏ったダンサーたちは、会場内のあちらこちらに設置された16の円形ステージを渡り歩きながら、繊細さとダイナミックさを併せ持ったダンスで参加者を魅了します。
多くの人を引き付けた、ELEVENPLAYのダンスパフォーマンス
ダンサーたちは、バルーン型のデバイスに囲まれたステージからステージへと参加者の間を移動するほか、衣装内部に仕込まれたLEDが光る演出もあり、参加者たちは吸い寄せられるようにダンサーが踊る姿を見つめます。
この間、バルーン型のデバイスは、ピンク、白、黄色、赤、水色、青、薄紫といった、いくつもの色に瞬くように変化。時折、さざなみが煌めくような光の動きも見られました。参加者たちは自分が持つデバイスや全体を交互に見つめながら、まさにアート作品の一部になった時間を楽しんでいました。
歴史と未来、伝統と革新が交差した近未来のTOKYOを感じさせる、特別な一夜となりました。
ダンスパフォーマンスが終了し、イベントの終了をつげるアナウンスがあった後も、増上寺境内にはインスタレーションの余韻に浸る参加者たちが多く見られました。
ライゾマティクスのファンという男女は、「初めの神聖な感じから、徐々に色も鮮やかになって楽しめました。ELEVENPLAYの衣装も素敵でした。和を意識した演出だったので、ライゾマティクスが2020年のオリンピック・パラリンピックでも、なにかやってくれるとうれしい」。
家族3人で参加していた男子中学生は、「キレキレのダンスがすごかった。風船の光の変化もきれいで、今の技術で、こんなすごいことができるんだと思いました」と感心した様子で話してくれました。
「Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13」は、これから2020年夏まで、斬新なアートプロジェクトを多数展開していきます。2020年は、スポーツ競技に注目が集まる一方で、芸術文化都市として東京が持つ魅力を国内外にアピールする1年にもなりそうです。
| 「Light and Sound Installation “Coded Field”」
「Light and Sound Installation “Coded Field”」公式サイト
https://coded-field.tokyo/
“Coded Field”のダイジェスト動画をこちらからご覧いただけます。
| Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13 関連情報
「Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13」とは? 多彩なプログラムを一挙にご紹介します!
https://www.rekibun.or.jp/art/reports/20191129-20295/
Tokyo Tokyo Festival サイト
Tokyo Tokyo FESTIVAL スペシャル13