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「オペラ夏の祭典2019-20 Japan⇔Tokyo⇔World」 2019年上演の『トゥーランドット』について、出演者が熱く語る〈東京文化会館〉

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に合わせて、東京文化会館と新国立劇場が初めて共同制作するオペラプロジェクト「オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔︎Tokyo↔︎World」。オリンピック・イヤーの前年に当たる2019年には、プッチーニの遺作『トゥーランドット』が東京・大津・札幌の3都市・4つの劇場で計11回上演されます。

 

劇中にて女奴隷のリューを演じる砂川涼子さん(ソプラノ)と、宦官のポンを演じる村上敏明さん(テノール)を迎えたトークショーが、2018年9月1日に東京文化会館小ホールで行われました。トークの直前までこのホールでは、お二人が主役のトスカとカヴァラドッシを演じるオペラ『トスカ』が上演されており、大変な役を歌い終えたばかりでの登壇。司会は朝岡聡さんが務めました。

 

トークショーは和やかに進行 ©︎ヒダキトモコ

 

朝岡 「トスカを歌われたばかりで、今度はリューについてもおうかがいしてしまいますが、歌手にとってプッチーニのヒロインを歌うという体験はどのようなものですか?」

 

砂川 「色々な文献を読んだり、演出家の方に話をお聞きしたりしてわかったのは、どうやらプッチーニは理想の女性をオペラのヒロインに託して書いたらしいのです。トスカは気性こそ激しいけれど情熱的でちょっとかわいい性格をしていますし、リューもカラフ王子に健気に尽くす役。なるほど男性の目線でこういうふうに書かれているのかと思うと、大切に演じなければならないと気が引き締まります。」

 

リュー役の砂川涼子さん ©︎ヒダキトモコ

 

朝岡 「村上さんが演じるのは大臣のポンですね。」

 

村上 「僕が演じるポンは、三人いるピン・パン・ポンの一人で、中国人の人民の象徴として登場します。お役人として皇帝やトゥーランドットに仕える身なんだけど、一人の人間でもあるんだよ、ということを第二幕の第一場で歌うんですね。自分たちには家庭もあるし家族もいるし、故郷もあるんだと、三人が入れ代わり立ち代わり回りながら道化のように歌う。そういう部分が人間的なんですね。カラフ王子がトゥーランドットに結婚を申し込むときも「そんなことはやめろ」とくるくる回って歌う…どちらかというと三枚目に近いです。あくまでもお役人として堂々として立っていながら、滑稽な部分も出していくので、難しい役回りだと思っています。」

 

客席では熱心にメモを取る人も多く、歌手の言葉ひとつひとつに大きな関心が向けられます。朝岡氏からは、オリンピックと芸術はかつて同時に祭られ、スポーツをテーマにした音楽・絵画・建築・彫刻・文学を競う「芸術競技」が存在したことが紹介される一幕も。

 

砂川 「歌手にもアスリートのようなところがあると思います。日々の苛酷な訓練こそないけれど、私たちも身体を使うし、体力を使います。身体はムキムキではないんですけれど…(笑)。フィギュア・スケートが大好きなので、勝手に共感しながら見ることが多いんですよ。くるくる回っているところは、ソプラノが高音を出したりコロコロ転がる声を出したりするのにちょっと似てるかなと思います。」

 

村上 「そうですね。私たち歌手も、ただ立派な声を出せばいいのではなく、音に色彩をつけたり、自然な演技をつけたりして繊細な表現をしなければならない。だから、私もちょっと痩せなくてはと思っています。やっぱり綺麗でないと(笑)。そういう部分も含めて総合力の時代です。」

 

ポン役の村上敏明さん ©︎ヒダキトモコ

 

砂川 「オペラ歌手も、譜面を置いたときにいかに演劇の部分で間を持たせるかが問われています。呼吸や表情で音楽を感じさせたり、うそのない演技で見せなくてはならない…日々役者の部分を磨いていかなければ厳しい時代ですね。」

 

『トゥーランドット』の演出を手掛けるアレックス・オリエはスペインの演出家チーム、ラ・フーラ・デルス・バウスのメンバーで、バルセロナ・オリンピックの開会式の演出を担当した人物。彼の考えによると「ハッピーエンドはありえないのではないか」という。

 

村上 「プッチーニが“リューの死”を書いたところで亡くなった後、弟子のアルファーノが補筆して完成していますが、20年くらい前にイタリアの現代作曲家のルチアーノ・ベリオも同じ台本に違う音楽を書いています。今回は演出的にどのような結末になるのか、早く知りたいですね。」

 

今シーズンから新国立劇場のオペラ監督に就任し、『オペラ夏の祭典』で指揮をつとめる大野和士氏について、2人はこう語りました。

 

共同制作記者発表の模様(2017年12月21日) 右から3人目が、指揮を務める大野和士氏  ©︎堀田力丸

 

砂川 「去年初めて、大野さんがピアノを弾きながらレクチャーされるというコンサートでご一緒したのですが、ふだんは静かなのにお話をはじめると急にお茶目になる方。オペラで共演させていただけることを光栄に思います。」

 

村上 「僕も去年コンサートで初めて共演させていただきましたが、合唱団員としては昔から何度もお世話になりました。当時から、非常に卓越した才能を発揮していらして、その後はヨーロッパの主要な劇場で監督を務められました。オールマイティな方で、東京都交響楽団が今のようなスーパーオーケストラになったのも、音楽監督の大野さんの力が大きいのではないでしょうか。ご一緒するのが今から楽しみですね。」

 

45分にわたったトークは、理想のプッチーニ・ヒロインからオペラ歌手が求められる現代性についてまで多岐にわたり、それを聴くお客さんの集中力の高さにも驚かされました。壮大なオペラ・プロジェクトへの期待が募るトークショーだったこともあり、本番が楽しみでなりません。

 

 

 

日本で初めてオペラが上演された記念日である11月24日に、観覧無料イベントを開催!

オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔︎Tokyo↔︎World プレイベント
『今日はオペラの日』

【日時】2018年11月24日(土)15:30~16:30
【場所】KITTE1階アトリウム イベントスペース

 

 

 

 

オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔︎Tokyo↔︎World 
プッチーニ作曲『トゥーランドット』[全3幕/原語(イタリア語)上演 日本語字幕]新制作

【日時】2019年7月12日(金)18:30、13日(土)14日(日)14:00
【場所】東京文化会館 大ホール

 

文=小田島久恵