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「エル・システマ・フェスティバル2018 ガラコンサート」(12/1開催)直前レポート① 東京ホワイトハンドコーラスの練習に密着!〈東京芸術劇場〉

「東京ホワイトハンドコーラス」の練習風景

 

南米ベネズエラで始まり世界各地に広がりをみせている音楽教育プログラム「エル・システマ」。その一環として、1995年に、やはりベネズエラで生まれたのが「ホワイトハンドコーラス」です。音楽に合わせて歌う声のコーラス隊の横で、白い手袋をして、手の動きで歌を表現する「手歌(しゅか)」と呼ばれるパフォーマンスを行うもので、指揮者に合わせて蝶のように白い手袋が舞うことから、この名前がつきました。

 

そして、2017年6月、日本のろうの子どもたちを対象に結成されたのが「東京ホワイトハンドコーラス」です。その活動は、障害の有無にかかわらず、子どもたちが自分らしさを大切にしながら、互いに思いやりを持って共生できる社会を目指す芸術活動として行われています。「東京ホワイトハンドコーラス」は同年10月に東京芸術劇場で開催された「エル・システマ・フェスティバル2017  ガラコンサート」でデビューを飾りました。

 

   「エル・システマ・フェスティバル2017 ガラコンサート」での東京ホワイトハンドコーラス (C) FESJ/2017/Mariko Tagashira
※2017年の東京ホワイトハンドコーラスの練習風景とデビュー公演の模様を動画でもご覧いただけます。【YouTube

 

 

さらに2018年6月には、「手歌」を行う“サイン隊”に加え、盲の子どもたちを中心とするコーラス隊=“声隊”も結成。2018年12月1日(土)に東京芸術劇場で開催される「エル・システマ・フェスティバル2018  ガラコンサート」で、“サイン隊”と“声隊”が初共演します。今回はその公演に向けた練習風景を取材しました。

 

 

今年デビューする、“声隊”の練習法とは?

「東京ホワイトハンドコーラス」の練習は毎月1〜2回、日曜日に東京芸術劇場などで行われています。この日は“サイン隊”と“声隊”が別々に練習した後、合同練習を行います。まず“声隊”の練習場へ行くと、子どもたちが続々と集まってきました。参加メンバーは小学生、中学生からなる16人。弱視の子や全盲の子に加え、目の見える子など一人ずつコンディションは違いますが、席に着くと近くの席の子と早速お喋り。とても賑やかで、みんな本当に楽しそうです。

 

さあ、 “声隊”の練習スタート! 𡈽野先生(右)のお話を(はじめは)ピシッとして聞いています

 

“声隊”を指導するのは音楽療法士で声楽家の𡈽野(つちの)研治さんです。「姿勢をよくしてくださいね! よろしくお願いします」と先生の挨拶で練習が始まりました。この日はスペイン語の曲のレッスンから。「巻き舌できる?」と先生が尋ねると「ルルル〜」と声に出し、巻き舌にトライする子どもたち。なかなかの腕前です。発声練習では「ラララララ」と歌う先生に続き、子どもたちのきれいな声が響きます。

 

「右手を自分の顎にあててごらん。顎を動かさない方が声はきれいに出ます。もう一回やってみよう」。徐々に音階を上げながら何度か発声練習をした後、スペイン語の歌の練習へ。

 

右手を顎に当て、顎を動かさないように注意しながら、声を出す練習

 

難しいスペイン語の曲も堂々と歌う子どもたち。途中、先生が間違えたことに気づき、子どもたちが一斉に笑い始める場面もあり、「間違いに気づいたってことは、ちゃんと覚えているってことだね」と𡈽野先生。

 

休憩時間に、小学2年生の男の子に「東京ホワイトハンドコーラス」に参加したきっかけを聞いてみると、元気にこう答えてくれました。

 

新しい歌を覚えたり、友達ができるのが楽しい!

 

「学校でチラシをもらって。最初は学校の音楽だけでいいと思ってたけど、やってみたら楽しかった! 『ふるさとの空』という、今まで知らなかった曲も歌えて嬉しかったし、とっても楽しいです!」

 

 

指先、体全体で表現する“サイン隊”の「手歌」

続いて、別の部屋で行われていた“サイン隊”の練習場へ。指導者はソプラノ歌手で、エル・システマジャパンのスペシャルアドバイザーでもあるコロンえりかさんと、日本ろう者劇団の井崎哲也さん。“サイン隊”のメンバーは、聞こえない子、少し聞こえる子、読話のできる子など、こちらも多様な19人の子どもたちで構成されています。“サイン隊”は“声隊”とは別のスペイン語の曲を練習している最中でした。本番でする白い手袋をして元気いっぱいに表現している女の子、先生の動きを集中して見ながら表現している中学生の男の子など、それぞれのやり方で練習に励んでいる様子が見てとれます。

 

全身を使って教えるえりか先生に負けないくらい子どもたちも表現力豊か

 

歌詞の内容を受け止め、手話をもとにオリジナルの表現を創作し演じるのが、“サイン隊”の「手歌」。
練習では歌詞の日本語訳が書かれた紙を貼り、えりか先生がパソコンを使ってスペイン語の歌詞をイメージするための写真を映し出しては、丁寧に説明していきます。子どもたちは先生たちの通訳の手話と写真をじっと見つめ、理解している様子。

 

スペイン語の歌詞の意味を写真を使って丁寧に説明する、コロンえりか先生

 

「みんなで音楽に合わせてやってみよう」。流れてきたのは、かなりテンポの早いスペイン語の曲。音楽に合わせ、表情豊かにスペイン語の「手歌」を表現する、えりか先生。子どもたちと並んで一緒に動きを確認する井崎先生。子どもたちも指先、身体全体を使った手歌でリズミカルに表現しています。

 

「手歌」での表現を指導をする、日本ろう者劇団の井崎哲也さん(左端)  ※右の写真は別日の稽古より

 

練習後、取材に答えてくれたのは今年で参加2年目という中学3年生の男の子。「歌を表すこと、音楽を表すこと、覚えることが楽しいです。昨年初めて舞台に立ってドキドキしましたけど、手歌で表現することができてすごく嬉しかったです」。また、小学2年生の女の子は「ベネズエラの曲は昨年、すごく早くて難しかったんですけど、今年はスムーズにできるようになりました」と嬉しそうに手話で話してくれました。

 

 

 休憩時間、えりか先生からお手製のおやつの差し入れが! 歌詞にも出てくる「アレパ」というベネズエラのパン

「初めて食べる味!」「美味しい」「ポテトみたい」と、子どもたちは大喜び

 

 

“サイン隊”と“声隊”が「バディ」を組んで行う合同練習

いよいよ合同練習へ。“サイン隊”と“声隊”にはお互い「バディ」と呼ぶペアがいて、練習場で合流するとすぐに、バディ同士で仲良く手をつなぎ、コミュニケーションを取り始めます。すっかり打ち解けた様子です。いざ練習が始まると、バディ同士が向かい合って立ち、先ほど“声隊”が練習していたスペイン語の曲を合わせます。

 

”サイン隊”と“声隊”のバディ同士が向かい合って合同練習

 

早いテンポの曲ですが、“サイン隊”の動きと“声隊”のコーラスが一つになるよう、先生たちも手拍子でリズムをとったり、表情で伝えたり。子どもたちも一生懸命です。

 

本番がある12月が近づいてきて、少しずつみんなの気持ちがひとつに

全体練習からは一体感が感じられました

 

ところで、異なる障害を持つ子どもたちは、互いにどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。“声隊”の中学1年の女の子が教えてくれました。「私は少し見えるので、ペアの“サイン隊”の子が目の前で手話をしてくれるのを見ていると楽しいです。その子も少し聞こえるので、大きな声ではっきりと話すようにしています。お互い助け合っていて、通じ合っています」。

 

少し聞こえる子、少し見える子。お互い助け合って、通じ合っていると、中学生の女の子(右)が教えてくれました

 

練習風景を見て印象的だったのは、子どもたちの生き生きした表情、楽しそうに歌い、表現する姿でした。そして、それぞれ障害の垣根を超え、信頼関係を築いていること。“サイン隊”と“声隊”の初共演となる12月の公演では、練習の成果を存分に発揮してくれることでしょう。

 

 

 

 

エル・システマ・フェスティバル2018 ガラコンサート開催概要

【日時】2018年12月1日(土)15:00開演(ロビー開場14:00)
【会場】東京芸術劇場コンサートホール
【指揮】エンルイス・モンテス・オリバー
【出演】
相馬子どもオーケストラ、大槌子どもオーケストラ、駒ヶ根子どもオーケストラ
東京ホワイトハンドコーラス [指導・指揮:コロンえりか、井崎哲也、𡈽野研治 ピアノ:粟津礼子]
ララ・ソモス(ヴォーカル・アンサンブル)
【チケット】全席指定(税込)一般2,000円、高校生以下1,000円※高校生以下チケットは東京芸術劇場ボックスオフィスのみ取扱い。公演当日証明書を受付にてご提示ください(枚数限定)。
【URL】http://www.geigeki.jp/performance/concert157/

 

 

聴覚に障害のあるお客様のための鑑賞サービス

本コンサートでは、聴覚に障害をお持ちの方への鑑賞の手助けとして、舞台上に歌詞などが字幕で表示されるほか、下記のサービスを実施いたします。
■客席の一部にヒアリングループが作動します。
■ボディソニック(体感音響システム)が約10席設置されます。【協力:パイオニア株式会社】
■Ontenna(振動による音知覚装置)が約10席設置されます。【協力:富士通株式会社】
※ヒアリングループ、ボディソニック、Ontennaの使用、および使用可能なお席のチケット購入は、東京芸術劇場ボックスオフィスまで、メールにて事前のお申し込みが必要です。 詳細はこちら

 

文:田辺 香