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東京文化会館で初となる、来場者参加型の「避難体験コンサート」を開催しました。

 当日の演奏は指揮:梅田俊明、管弦楽:東京都交響楽団

 

もしも、コンサートの最中に災害が発生したら…?

ホールで演奏中に災害が発生したという想定で、お客様、出演者、スタッフがそれぞれの立場で避難・誘導を実際に体験することを目的にした「避難体験コンサート」が、2018年5月7日に東京文化会館で初めて行われました。

 

東日本大震災を機に各地で広がる避難訓練コンサート

今回のように、お客様にコンサートを楽しんでいただく一方、災害時の避難も体験していただく来場者参加型のコンサートは、2011年の東日本大震災後、茨城県の水戸芸術館で行われたのを機に様々な施設で実施されるようになり、全国各地で広がりを見せています。東京都ではさらに、2020年のオリンピック・パラリンピックを控え、非常時における危機管理体制の充実と強化を図る必要性が高まっています。

 

当選したお客様が、入場開始前から長い行列を作りました

 

今回の「避難体験コンサート」では、コンサート中に避難を体験できることもあって、事前に募集した600人の定員に対して応募者は約1000人に上り、危機管理への関心の高さが伺えました。

 

当日は、抽選で選ばれたお客様が東京文化会館の大ホールに来場。途中で避難訓練が実施されることは事前に告知されていますが、いつどのタイミングで災害が起こるのかは知らされておらず、コンサートを楽しみにしつつも緊張した面持ちで入場される方もいらっしゃいました。

 

コンサートは通常通りにスタート。素晴らしい演奏に、お客様も大満足!

 

いよいよコンサートがスタート。演奏は東京都交響楽団、梅田俊明さん指揮のもと、オープニングを飾ったのは、映画でおなじみの交響組曲「スター・ウォーズ」より《メインタイトル》(J・ウィリアムズ作曲)。その後、オーケストラの楽器紹介で、弦楽器、管楽器等セクションごとにアンサンブルが披露されました。金管楽器のメンバーがマウスピースだけで音を出し、猫の鳴き声のような音色が響いて、会場全体がほっこりする場面も。

 

楽器紹介が終わると、ブラームス作曲の「ハンガリー舞曲第5番」や、拍子木、締太鼓など和の打楽器が鳴り響く「管弦楽のためのラプソディ」(外山雄三作曲)、ドヴォルザーク作曲「交響曲第9番ホ短調《新世界より》」から迫力のある第4楽章が演奏されました。

 

司会を務めた江原陽子さんは、楽曲の解説などを初心者にもわかりやすく伝えてくれました

 

司会をつとめた江原陽子さんの軽快なトークも楽しく、コンサートはあっという間に終盤へ。2曲目のアンコール曲演奏が始まって間もなく、地鳴りの音が響き、突然、会場が暗転。演奏も止まりました。

 

 

突然地震が発生! まずは落ち着いて行動するように舞台上、客席から声かけがありました

 

照明が再び明るくなると、ステージ上の職員より、地震が発生したこと、建物は耐震基準を満たしているため安全である旨が告げられました。「館内の状況確認をしているのでその場でお待ち下さい」というアナウンスとともに、「落ち着いてください,Please calm down」と日本語と英語で書かれたプラカードを掲げたスタッフが会場を回りました。

 

ところがその後、地下1階のレストラン厨房から火災が発生したとの情報が!「公演を中止し、安全確保のため、ロビーに避難する」との職員の指示にしたがって、お客様は会場の外へ避難することになりました。

 

お客様の避難の様子

 

文字が書かれたプラカードや旗などでお客様を誘導するスタッフ

 

「EVACUATION ROUTE(避難ルート)」と書かれたプラカードや旗を掲げたスタッフの誘導により、お客様全員が落ち着いて指定された避難場所へ移動することができました。 本来は、建物の外へ避難する予定でしたが、この日はあいにくの雨ということで、大ホールのホワイエに集合。安全を確認し訓練は終了しました。

 

避難体験コンサートのポイント―災害時にお客様へどう対応すべきか

東京都消防庁上野消防署の大谷予防課長

 

避難訓練後は、東京消防庁上野消防署の大谷予防課長による講評が行われました。大谷予防課長によると、今回の避難体験コンサートのポイントは以下の3点でした。

 

・発災時・誘導時にお客様にどのように指示を出して避難させるか。
・大勢のお客様がいる中で、パニックを防止するべく、少人数のスタッフがどう対応すべきか。
・お年寄りの方や車椅子の方、目の不自由な方などの避難誘導をどのようにしていくのか。

 

「避難体験コンサート」では災害発生後、すぐに「建物は耐震強化されている」とのアナウンスが入りお客様を安心させたこと、余震に備えて「頭の上にバッグや上着を掲げて自分の身を守ってください」と指示したこと、実際に避難が始まるとプラカードで避難経路を明確に示してお客様の移動をスムーズに誘導したことなどスタッフの対応を評価し、「沈着冷静な指示、避難誘導の予行がなされ、本番さながらの大変意義のある訓練となった」と語りました。

 

講評の中で、「耐震強度が大丈夫であっても、万一のことがある。天井が落ちてきたときは、座席の背もたれの高さよりも低くまで頭を下げていたら助かるかもしれない。身の安全を守るためのとっさの判断はとても大事」とアドバイスも交えて話した大谷課長。最後は、「いつ来るかわからない直下型地震に備えて日頃から家族や周囲と話し合い、『自分の身は自分で守る』という防災意識を高めていただければありがたい」と締めくくりました。

 

煙や地震 最新の防災が体感できるVR体験コーナーも

地震の様子をリアルに体験できる、VR防災体験車

 

この日はコンサートと合わせて、会場外で上野消防署の協力の元、地震や煙などをリアルに体験できるコーナーが設置されました。

 

地震体験のVR(バーチャル・リアリティ)のコーナーでは、椅子に座って地震の揺れを体験。専用ゴーグルを通して自宅が揺れて家具が倒れたり、物が落ちたりするのを目の当たりにしながら、本物さながらの地震を体感することができました。

 

 

「煙体験ハウス」の擬似スモークは安全性の高い成分を使用していますが、臭いや息苦しさは本物の煙を想起させます

 

こちらは入口をめくっただけで煙が立ちこめる煙体験のテント。入ってみると一面の煙で視界が遮られて右も左もわからず、さらに煙を吸い込んでのどが痛くなり、わずか5メートルほどにも関わらず出口まで辿り着くのが大変でした。消防隊の方にお話を伺ったところ、このような煙の中を避難する場合は、ハンカチなどで口元をガードして有害物質を吸い込まないように気をつけ、方向がわからなくならないように姿勢を低くして煙の薄いところを探し、壁伝いに移動するとよいのだそうです。

 

<参加したお客様の声より>

「コンサートは非常によかったのですが、避難訓練のとき、前のほうの席にいたせいかプラカードを持ったスタッフさんが何を言っているかがよく聞き取れませんでした。前方にもスタッフを配置していただくか、もう少し大きい声で呼びかけてくれるといいなと思いました。」

 

「今後コンサートを見に行くときは、今回のような意識で自分も動けるかなと思いました。また、地震が起きると電車なども止まってしまうので、ホールから避難できても「そこからどうしたらいいんだろう?」と次のことが不安になりましたので、出かけるときは水や食料などちょっとしたものでも持っていたほうがいいのかなと思いました。」

 

いつ来るかわからない災害を想定した東京文化会館の避難体験コンサート。都立文化施設としては初の試みとなりましたが、音楽を楽しみつつも災害や避難についても考えることができ、有意義な場となったのではないでしょうか。

 

「避難体験コンサート」 開催概要

日時:2018年5月7日(月)15:00開演(1時間40分程度)
出演:指揮/梅田俊明,管弦楽/東京都交響楽団,司会/江原陽子
会場:東京都文化会館 大ホール
料金:入場無料(事前申込制)

URL:https://www.rekibun.or.jp/events/events-8342/