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2023年夏、東京都渋谷公園通りギャラリーで行われたふたつのプログラムをレポート 「真っ赤なアイドル”AKAZOKU”がやってくる」「あうたびにラブレター」

  • 2023.12.15
「真っ赤なアイドル“AKAZOKU”がやってくる」出演者と関係者のみなさん

異なる属性を持った人々が理解しあい、包容力のある共生社会の実現を目指し、アートを通して、気づいたり考えたりする機会を作り出すさまざまな企画を展開している東京都渋谷公園通りギャラリー。アール・ブリュット等の作品展示以外にも、トークやライブ、パフォーマンス、ワークショップなど、多様な創造性や新しい価値観に触れるための多岐にわたる交流プログラムを実施しています。

この夏、東京都渋谷公園通りギャラリーでは、金沢を拠点に活動するダンスアーティストのなかむらくるみさんと、なかむらさんがディレクターを務め、知的や身体的な障害のあるメンバー約20名がダンサーとして参加するダンスカンパニー「あら・おるズ」を招きふたつの交流プログラムが開催されました。

音楽とダンス、思い思いの方法で自分を表現する“アイドル”たち

「展示」という形式では扱うことが難しい音楽やダンス、演劇など、「生の表現」が生まれる場を、アーティスト同士や観客の反応も取り入れながら展開する東京都渋谷公園通りギャラリーの交流プログラム「パフォーマンス・シリーズ『RAW』」。その第3弾として行われたのが「真っ赤なアイドル”AKAZOKU”がやってくる」です。

出演するのは、「あら・おるズ」から4名のダンサーに加え、「あら・おるズ」と同じように知的な障害のある人々を含むメンバーで構成され神戸をベースに活動する「音遊びの会」の2名からなる、この公演のために結成されたスペシャルユニット。さらに音楽家の高雄飛さん、映像作家の野田亮さんが加わります。

彼らの表現と魅力を引き出す進行役として、パフォーマンスを盛り上げるのがダンスアーティストのなかむらくるみさんです。金沢を拠点に身体表現(ダンス)というコミュニケーションツールを使って人の身体が持つ可能性について発信しているなかむらさんは、これまで金沢21世紀美術館をはじめ、国内外の美術館や福祉施設、特別支援学校などでワークショップやパフォーマンスを行ってきました。

パフォーマンスの案内役を務めたダンスアーティストのなかむらくるみさん

会場に入ると、観客には真っ赤な台紙の「絵図」が配られました。なかむらさんによると「出演者や鑑賞者がなにをしているかを共有するための地図やメニューのようなもの」。会場にも、配布された絵図と同じものが貼り出されています。

こちらの「絵図」をもとにパフォーマンスが進行していく

公演は「絵図」の上段左端のパフォーマンスからはじまりました。「AKAZOKU」とは、民族衣装風の赤い服を身にまとい、顔や体にも赤いペイントを施した”真っ赤なアイドル“と名乗る男たち。布作家、早川ユミさんが手掛けたそれぞれに少しずつデザインの異なる真っ赤な衣装に身を包んだ8人の「AKAZOKU」のなかには車椅子のメンバーもいます。カメラマンの野田さんを先頭に、まずは会場全体をぐるぐると練り歩くメンバーたち。最初は象形文字のようにしか見えなかった絵図ですが、パフォーマンスを見ていくと「この絵は人がつらなる様子とカメラを表していたんだ」ということがわかってきます。

列になって入場してきた「AKAZOKU」たち

しばらくすると、なかむらさんはメンバーたちに「そろそろ音楽とダンスをやりますか?」と声をかけました。絵図の「米粒が散らばっているような図」のシーンのスタートです。「音遊びの会」のよしみくん(吉見理治さん)がギターを鳴らし、たかやまくん(高山優大さん)がタンバリンでリズムをとると「あら・おるズ」のダンサーのよしぼー(林芳樹さん)、りんたろうくん(魚琳太郎さん)、こうせいくん(大家港生さん)、やっちゃん(浅永弥亮さん)は、図と同じようにバラバラになって会場全体に散らばり、ポーズをとり始めました。サポートのゆうひくん(高雄飛さん)は、ギターを盛り上げるようにパーカッションの音をキーボードからアドリブで添えてセッション。盛り上がる音楽にあわせて、ダンサーたちが踊り始め、独特のグルーヴが生まれていきます。

エレキギターを弾きながらシャウトするよしみくんと、大きな動きでびのびと踊るりんたろうくん

その後も、段ボールや長い紐の両端にポンポンがついている小道具などを使って、ダンサーの4人がひとりずつ、カメラに向かって自由に身体を動かしアピールする即興のパフォーマンスや、指揮者役のパフォーマーに合わせてミュージシャンがセッションする「指揮者」のパフォーマンス、よしぼーがマイクを持って観客にインタビューするコーナーなど、「絵図」に沿ってバラエティ豊かな演目の数々が披露されていきます。

よしぼーは観客に突撃インタビュー

なかむらさんは、常にメンバーたちに「やりますか?」「どうしますか?」と声をかけ、対話をしながら、彼らがやりたいことを無理なく表現できるよう促していきます。 「AKAZOKU」のアイドルたちは同じように踊ったり、楽器を奏でたりすることはしません。でも、ちょっと変わった「絵図」を道しるべにそれぞれが得意な方法で自分を自由に表現していくことで、ひとりひとりの個性が輝き、観客たちの心を動かすユニークなパフォーマンスが繰り広げられていきました。

フィナーレでは、なかむらさんの呼びかけで観客もパフォーマンスに参加。メンバーが配ったカラフルな布を繋いで大きな円を作るなど、見るだけでなく自分自身も公演の一部となる一体感を感じながら公演は終了しました。

最後は観客もパフォーマンスに参加

公演は午前と午後の2回行われ、午後の回には橋本一郎さんの手話通訳がつき、さらに船本由佳さんによるライブでの音声ガイドつきで上演。ろう者、視覚障害のある方たちも楽しそうに参加している姿が印象的でした。

公演の記録動画(音声字幕付き)はこちらからご覧いただけます。
https://inclusion-art.jp/archive/interactive/2023/20230709-179.html

個性豊かな講師たちとの出会いをことばと身体で表現

8月5日(土)、6日(日)の2日間にわたって行われた子どもを対象にしたワークショップ「あうたびにラブレター」は、「あら・おるズ」から、「AKAZOKU」とは別のメンバー3名が参加。彼らが講師となってそれぞれが得意な方法で、子どもたちとコミュニケーションを楽しみました。

1日目。最初に講師として登場したのはたまぴーです。たまぴーはチラシを使っていろいろなものを作るのが得意。短冊状に切ったチラシをくるくると細い筒状にしあげたり、チラシを折って箱を作ったり、驚くべきスピードで黙々ときれいに仕上げていきます。子どもたちはその動きをじっくり見ながら、同じように作ってみます。たまぴーも、子どもたちを見守りながら作業をサポート。言葉は少ないものの、たまぴーと子どもたちの間には着実に“師弟関係”ができあがっていたようです。

たまぴーにならって、チラシを使った工作を楽しむ子どもたち

続いての講師はたかちゃんです。たかちゃんはかばんの中身を人に見せるのが大好き。「頼んでないのに見せてくれるんです(笑)。でも、かばんの中身を見せてもらうと、たかちゃんがどんなことが好きで、どんなことを楽しいと思っているのかが、話をしなくても知ることができます」となかむらさん。そこで、みんなでかばんの中身を見せあうことに。たかちゃんのかばんには、五木ひろしのCDや動物園のチラシ、サングラス、テレビ雑誌、さじ(スプーン)など、ユニークなものがたくさん入っています。

たかちゃんのかばんの中から出てきたもの

続いて子どもたちにもカバンの中身を見せてもらいました。中身は消しゴムやぬいぐるみ、昆虫図鑑、水筒、定期入れなどそれぞれ全然違います。そして、さっき初めて会った同士でも、持ち物を見せてもらうことをきっかけに、その人がどんな人か少しずつわかってきます。

子どもたちも、お気に入りのぬいぐるみや図鑑、マンガなど、みんなでかばんの中身を見せ合うことに

そして3人目の講師はもりさんです。もりさんは、好きな人に毎日のように手紙を書いて、自分の気持ちを伝えるのが得意です。この日、もりさんは大好きななかむらさんに手紙を書き上げていました。子どもたちももりさんと同じように、「好き」という気持ちを伝える手紙を書きます。手紙の宛先は、人だけでなく、猫だったり、サッカーだったりとさまざま。文字だけでなく、絵や色を使って伝えている人もいました。

なかむらさんへのラブレターを読み上げるもりさん
もりさんの手紙を参考に、自分たちも「好きなもの」に対してラブレターを書く子どもたち。「見せてもいい」という手紙は壁に貼り、みんなの「好き」を共有しました

チラシを折って工作をしたり、かばんの中身をみせたり、手紙を書いたりと、それぞれの方法でコミュニケーションをとる3人の講師たち。子どもたちは、初めての出会いに戸惑いつつも、彼らと一緒に手を動かしたり、ことばを紡いだりしながら、初めてのこと、わからないことにまずはじっくりと向き合い体験する時間を過ごしました。

2日目は、前日に体験し感じたことを「身体」を使って表現します。前半は、昨日のことを思い出しながら、ダンスを作るためのヒントを考える時間です。まずは自己紹介。単なる自己紹介ではなく、即興でオリジナルの動きを交え自分の名前を紹介、そのあとみんなでその動きを真似します。

みんなで輪になってオリジナルの自己紹介ダンスを披露

続いて、室内を歩きまわりながら、すれ違う人と手やお尻でタッチを交わし、オリジナルの挨拶をしあったりし、「体の部位が書かれた紙」を選んで、ポーズをとってその部位をアピールしたり。体の動きが少しずつ大きくなり、どんどん動きが自由になっていきます。

みんなで作成した体の部位が書かれたカードを使ったダンスなどを通して体で表現することを体験

この日の後半はこれまで考えてきた動きや振りをいかしながら、前日のワークショップで経験したこと、感じたことをこの日のために制作されたオリジナルの音楽に合わせて表現していきます。チラシをまるめて筒を作ったたまぴーのワークショップから「くるくる」としたイメージや、たかちゃんのかばんの中から出てきた「さじ(スプーン)」や「サングラス」をイメージした動き、もりさんのワークショップで自分が書いたラブレターを思い出したりしながら、振り付けを考え、思い思いに体を動かしました。

「わからない」こと、初めて経験することと向き合い、まずはことばで、そして身体を使って表現した2日間にわたるプログラム。子どもたちが、講師たちのユニークな表現に触れることで、自分自身の自由な表現、好きなことを大切にしたいと思えるような、そんなきっかけになることを願って、ワークショップは終了しました。

観客や参加者のリアクションを浴びて、即興で楽しむビビッドな時間
なかむらくるみさんインタビュー

これまで、子どもや高齢者、知的や、身体に障害のある人たちとさまざまなパフォーマンスやワークショップを行ってきたなかむらくるみさん。普段、金沢を拠点に活動しているなかむらさんと「あら・おるズ」が東京都渋谷公園通りギャラリーで公演やワークショップを行うのは初めてのことでした。

インタビューに答えるなかむらくるみさん ★ 撮影:東京都渋谷公園通りギャラリー

なかむら 「これまで私がやってきたことを、今回のような異なるふたつのパッケージで社会にどう見せられるか、提示できるかということにとても興味がありました。こんなにもたくさんの人がいる渋谷という街の一角で、やさしくて平和な時間が流れているということが私にとってはすごく喜ばしいことですし、刺激的でもありますね」

「真っ赤なアイドル”AKAZOKU”がやってくる」では、パフォーマーたちに明るくフラットに声をかけ、その場で対話をしながら彼らの表現を引き出していたなかむらさん。「あうたびにラブレター」でも、参加した子どもたちの様子を見ながら、そのリアクションをすぐに進行に反映していったりと、かたちや決め事に捉われることなく、その「場」で起こる化学反応を楽しむように、柔軟にプログラムを進めていく姿が印象的でした。

なかむら 「私はすごく人まかせなところがあるんです(笑)。例えば今回のワークショップでいうと、『あら・おるズ』のメンバーにとっても講師というのはあまり頻繁にある経験ではないし、どんな子どもたちが参加してくれるのかもわからない。それがどう組み合わさるか始まってみないとわからないところがあるので。みなさんのお顔を見て、リアクションを常に浴びて。私にとってはすごく楽しい、ビビッドな時間でした」

なかむらさんは、「あら・おるズ」を率いるディレクターとして、メンバーたちと月1回のワークショップを通じて交流を重ねています。今回のプログラムにおいても、メンバーたちがなかむらさんに絶大なる信頼を寄せていることを伺い知ることができました。

なかむら 「『あら・おるズ』とは、本当に普段彼らと接してるまんまです(笑)。私はたまたまダンスを長くやっていて、(ディレクターとして)リードする立場になっていますけど、彼らのほうが長けている部分も多いですし。私が彼らに興味があって一緒に何かやりたいと思っているので、あのようにしかならないというか。本当にいつも通りのやり取りを、その関係性も含めて見て楽しいパッケージにしているという感じですね」

★ 撮影:東京都渋谷公園通りギャラリー

「あら・おるず」のメンバーにとっても、今回の経験は大きな刺激になったようだとなかむらさんは話してくれました。

なかむら 「『AKAZOKU』に参加した『あら・おるズ』のメンバーと『音遊びの会』のメンバーは前日に初めて会って本番を迎えたのですが、音楽という違うジャンルの人たちと絡んだときに、いつもは出てこない体の動きとか、言葉の幅が見られたんです。いつも外にエネルギーを発散するようなダンスを見せる人が、そんなに落ち着いた動きをできるんだ、とか。私も、見に来られた彼らのお母さんたちも驚くような、そんな発見がありました」

「今回のようなワークショップで幅広い表現にふれたとき、参加者の方からは自分がいかに頭も体も偏っていたのか、閉じていたのかということに気づいた、という感想を頂くことが多い」と、なかむらさん。今回のふたつのプログラムは、出演者も、そして鑑賞者、参加者にとっても自分の世界を押し広げるような、そんな体験になったのではないでしょうか。

「『あら・おるズ』のパフォーマンスは場所やメンバーで全く異なるので、機会があればまた見に来てください。メンバーは海外公演がしたいとか言ってるんですよ。言った次の日には忘れちゃっていたりするんですけど(笑)」。

これからのなかむらさんと「あら・おるズ」の活躍も楽しみです。

取材・文:浦島茂世
撮影:阿部 健(★を除く)

パフォーマンス・シリーズ RAW03「真っ赤なアイドル“AKAZOKU”がやってくる」
開催日時:2023年7月9日(日)
出演:浅永弥亮(あら・おるズ)、魚 琳太郎(あら・おるズ)、大家港生(あら・おるズ)、林 芳樹(あら・おるズ)
音楽:高山優大(音遊びの会)、吉見理治(音遊びの会)、高 雄飛
映像:野田 亮
ディレクター:なかむらくるみ
https://inclusion-art.jp/archive/interactive/2023/20230709-179.html

子どものプログラム Kids meet 03「あうたびにラブレター」
開催日時:2023年8月5日(土)、6日(日)
ファシリテーター:なかむらくるみ
講師:たかちゃん(あら・おるズ)、たまぴー(あら・おるズ)、もりさん(あら・おるズ)
https://inclusion-art.jp/archive/interactive/2023/20230805-180.html

「あうたびにラブレター」の報告レポートが、東京都渋谷公園通りギャラリー公式ウェブサイトからダウンロードできます。ぜひご覧ください。都内外の美術館・文化施設・図書館でも配架しています。

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