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2/2(日)発表会を前に、「東京のはら表現部」ワークショップをレポート! 〈東京芸術劇場〉

2019年12月1日に行われたワークショップの様子。それぞれ違う個性を持ったメンバーの魅力が混ざり合う


東京芸術劇場では、20196月から毎月1回インクルーシブダンス「東京のはら表現部」のワークショップを主催・運営しています。障害のある人もない人も、身体表現を思い思いに楽しみ、個性を活かし合いながら一緒に新しいダンス作品を創造していく活動です。2020年22日(日)に東京芸術劇場で行われる発表会「オープンのはら season 1 ~創って、つないで、のはらって‼」に向けた練習の様子を取材しました。

 

 

「鑑賞」から「参加」へ。多彩なバックグランドを持つメンバーが集結!

近年、美術の分野では障害のある人の創造活動が注目を集めていますが、舞台芸術の分野ではいまだに「鑑賞」する対象であることがほとんどです。
2019年に東京芸術劇場が開始した「東京のはら表現部」は、障害のある人々に舞台の創造活動に「参加」してもらうことを目的として始まり、半年以上にわたってワークショップを重ねてきました。彼らの能力を引き出してアーティストとしての可能性を拓くとともに、こうした活動をコミュニティに広げていくファシリテータの育成も重要な柱の一つです。第1期では、メンバー22名のうち8名がファシリテーション実習生として参加することになりました。

 

「東京のはら表現部」には、支援学校の高校生や車椅子ユーザー、うつ病や精神疾患の人、高次の脳機能障害の人、障害のない人など、まったく違うバックグラウンドやダンス経験をもつ、高校生から30歳代までの年齢の人たちが集まっています。NPO法人みんなのダンスフィールド代表の西洋子さんがチーフ・ファシリテータを務め、障害のある人もない人も、さまざまな個性を持つ人々の身体表現を、振付や演出によるのではなく、各自のからだの内側から沸き起こる表現として、ひとつの作品にまとめていきます。

 

チーフ・ファシリテータを務める西洋子さん(中央)


2019年12月1日、7回目となるワークショップは、新宿区戸山にある全国障害者総合福祉センター「戸山サンライズ」で行われました。体育館に入ると、今度の発表に用いる衣装を囲んで集まっていました。温かい土や瑞々しい草木、流れる川や吹き抜ける風。それぞれのメンバーが思い浮かべる「野原」のイメージに合う、柔らかな素材でできたベージュや茶色、薄いブルーや紫色などの衣装を選んでいきます。

 

メンバーそれぞれが思い浮かべる「野原」のイメージに合う衣装を選ぶ

 

 

一期一会のパフォーマンス

各自が衣装を選び終わったところで練習が始まりました。優しいピアノの音楽が流れるなか、2人あるいは31組になって手と手を合わせて動いたり、西さんの「空間を押して」「走れー」といったかけ声で自由に動きます。「東京のはら表現部」では、こうした即興的な表現を重ねることで、それぞれのできること・できないこと、また周りが配慮・サポートすべき障害の特徴などを見つけながらそれぞれの身体表現を探してきました。

 

空気をはらんでゆっくりとなびく布は、風や光となって「野原」を演出する重要な舞台装置になる

 

メンバーの皆さんが一緒に表現していくなかで「お互いにわかってきたのでもう少し話し合いたい」と、ワークショップ以外にも自主的に集まって練習をしたり、野原のイメージをふくらませるために新宿御苑に出かけたりしたそうです。ウォーミングアップの後はいったん円になって前回の自主練について振り返り、西さんから動きのポイントが解説されたところで2月に発表するパフォーマンスの練習が始まります。

 

 

作品のさまざまな場面でメンバー同士が手を合わせ、互いのタイミングを図りながら踊る

 

2時間ほどのワークショップのなかで皆さん何度も繰り返し練習をしていましたが、作品全体の流れはありながらも一人一人の動きは毎回少しずつ違っています。動きが少し遅れている人に声をかけながら踊ったり、空間の中で空いているところを見つけて埋めるように動いたり、なかなか合わない箇所のタイミングを変えたりと、メンバーの皆さんが「こうしたらみんなでもっと良い表現ができるのではないか?」と考えながら踊っていることが伝わってきます。西さんによると、日によって体調の悪い人がいたりと全員が必ず参加できるわけではないので、作品はいつでもどこでも誰でもが出入りできるように、今いる人たちで良い形をつくれるように、と考えられているそうです。

 

新聞紙を使った作品。動きの引き出しを広げるため、新聞紙のほか、布やハンドベルなども使う

 

 

お互いの魅力を引き出すケミストリー

「『東京のはら表現部』では、即興性のなかから、メンバー一人一人の生き生きとした魅力を引き出すことを大切にしています。」と語るのは東京芸術劇場の担当者。「不確定要素を楽しむ柔軟さが、作品を創る側にも観る側にも期待されるアートと言えるのかもしれません」と言うように、今回のワークショップではまさにこの即興性を目の当たりにすることができました。

 

休憩中や練習後にその日の参加者全員での話し合いの場がもたれ、当日の成果や反省点を発表していく

 

そして2020年22日(日)には、ワークショップの集大成として、東京芸術劇場の地下1階にある、大きな吹き抜けのロワー広場で発表会が行われます。「『絶対に見たい!』という方だけでなく、通りがかって『なんだか面白そう』と興味を持った方など色んな方に見に来てほしいです」と西さん。
当日は観客がワークショップに参加できる機会もあり、多様な人とともに創り上げる身体表現の価値と魅力を、メンバーと鑑賞者が分かち合う絶好の機会となりそうです。

 

1期の「東京のはら表現部」は2月の発表会後、3月のワークショップが最後の活動になりますが、2020年4月からは第2期が始まる予定で、現在参加者を募集中です。東京芸術劇場の担当者によると、「パラリンピックが開催される2020年9月頃に、『のはら第2期』の発表の機会を設けられたらと考えています」とのこと。

来期も、また違ったケミストリーを持ったパフォーマンスを見られると思うと、今からとても楽しみです。

 

 

◆東京のはら表現部  10代・20代のためのインクルーシブダンス連続ワークショップ 発表会

 「オープンのはら season 1 ~創って、つないで、のはらって!!」

【日時】202022 () 15:30-17:20

【場所】東京芸術劇場 ロワー広場、アトリエウエスト
    ※事前申込不要・参加無料・途中入退場可
【URL】https://www.geigeki.jp/performance/event259/

 

◆東京のはら表現部  2期メンバー募集

URLhttps://www.geigeki.jp/info/20191215

 

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取材・文:澤口えりか

写真:稲葉真