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会場全体に光あふれる野原が広がった!「東京のはら表現部 オープンのはら season1」〈東京芸術劇場〉

東京芸術劇場の地下1階ロワー広場で行われたショーケース

  
  

東京芸術劇場で2019年度から始まったインクルーシブダンス連続ワークショップ東京のはら表現部」。その活動発表の機会である「オープンのはら season 1 ~創って、つないで、のはらって‼」が、202022日(日)に東京芸術劇場の地下1階ロワー広場で行われました。ワークショップの取材レポートに続き、観客を巻き込んで盛り上がりを見せたパフォーマンスの様子を中心にレポートします。

 

 

メンバーそれぞれが思う「東京のはら表現部」 

 「東京のはら表現部」は、障害やダンス経験の有無などに関わらず、それぞれの身体の内側からわき起こる表現を引き出し、個性を活かし合いながら一緒にダンスを楽しむ活動です。チーフ・ファシリテータであるNPO法人みんなのダンスフィールド代表の西洋子さんを中心に、8名のファシリテーション実習生を含む22名のメンバーが、20196月から毎月1回のワークショップや自主練習などを通して活動してきました。

 

その成果を多くの人にお披露目する機会ともいえる2020年22日の「オープンのはら season 1」。第1部では、劇場地下1階のアトリエウエストにて、これまでのワークショップの様子をまとめた映像の上映とともに「東京のはら表現部」の紹介が行われました。お互いの名前も知らないまま一緒に身体を動かし始めたメンバーたちは、それぞれが思いのままに表現することを通して、相手や自分への理解を深めていったそうです。既存の枠組みや境界線にとらわれず一人ひとりが対等に活動できる場である「東京のはら表現部」に対して、メンバーからは「心を解放できる」「どんな表現があっても必ず誰かが受け止めてくれる」「知らない自分を発見できる」といった思いが語られました。 
 

第1部では、ワークショップの映像を上映しながら「東京のはら表現部」の目的やメンバーの思いを会場の人たちと共有

 
 

「安心して自分を出せる場所」「自分の秘めたる力を引き出す場所」など、それぞれの思いを語るメンバー

 

 

 

観客席にまで吹き抜ける、のはらの風

2部のショーケースは、劇場の地下1階にあるロワー広場で行われました。「のはら」のテーマにぴったりな赤土色の床と木々のレリーフで覆われた壁、頭上にはガラス天井の吹き抜けを通して青空が広がるこの広場は、1階ロビーやエスカレーターからもよく見えるオープンな空間です。

コの字型に置かれた客席に観客が座り始めると、すぐに明るいピアノ曲が流れてダンサーが元気よく飛び出してきました。空間全体を大きく使ってお互いの手を合わせたり、背中を押したりしながらのびのびと動き始めます。「奥も使って」「遠くの空を見ましょう」といった西さんの掛け声に合わせて自由に動いています。ダンサーたちの楽しそうな様子に、観客も「何が始まるんだろう?」と少し戸惑いながらもワクワクした表情です。

 

「手合わせ」という表現手法を使ったダンスからスタート!

 

ダンスを観ていると、よくダンサー同士が片手や両手を合わせながら踊っていることに気がつきます。この「手合わせ」という表現手法について、4名のダンサーによるパフォーマンスにあわせて西さんから解説がなされました。手を合わせることで体を通して「違っているってどういうことなのか、違っているからこそ生まれる表現ってどういうものなのだろうか」と、お互いに探り、感じ合うことができるそうです。

 

ダンサーが観客と手を合わせる場面も。観客からは「手が温かくて、瞬時につながる感じがしました」との感想があった

 

 

体全体で表現する野原の表情

つづいて、白やベージュ、薄いブルーなどの衣装に変わり、これまでのワークショップを通してつくり上げてきた作品が発表されます。新聞紙を使った作品「まど」では、紙をクシャっと丸めたり左右上下に振ったりしながら、スピード感のある曲に合わせてダンサーが複雑に入れ替わり、パワフルで目が離せないパフォーマンスが行われました。

 

   新聞紙という素材をダンスに取り入れることで表現の幅が広がる  撮影:中川周



撮影:中澤佑介
 

そして、いよいよメインとなる作品「そら」が始まりました。野原を舞台としたこの作品では、初めて出会う仲間が集まり、風が吹いて、木が育つ、空が広がる、土の中の生物が動く、嵐が訪れ、また新しい野原が始まる、といったさまざまな場面が描かれます。

 

野原に光や水、嵐をもたらす「空」が重要なテーマ。繰り返し空に向かって伸びていくイメージが表現された

 

繰り返し空に向かっていくイメージが表現される「そら」という作品からは、「東京のはら表現部」の活動の過程とともに、たとえ嵐におそわれることがあっても、常に風が通る開かれた場所であってほしい、という強い思いが表現されているようにも感じられます。

 

最後は、客席からの手拍子で盛り上がるなか、それぞれのダンサーが思い思いのポーズを取ってフィニッシュ。その後、大勢の観客も参加しての「手合わせ」ダンスが始まり、にぎやかな終演を迎えました。
 

最後に大勢の観客も参加してにぎやかに「手合わせ」が行われ、ショーケースが終了

 

 

ひとりの表現がみんなの表現へ

第1部で「東京のはら表現部」について、さまざまな人がいながらも「違いをまったく感じずに自由に踊ることのできる場所です」と語っていたダンサーの佐々木杏(ささき あん)さん。たくさんの知らない観客の前での作品発表ということで緊張したそうですが、「踊ってみるとお客さんの温かい声援や拍手があり、他のメンバーと目が合った時も笑顔を交わすことができてとても楽しく踊ることができました」とのこと。

 

終演後にお話を聞いた、佐々木杏さん(左)と大屋敷武瑠さん(右)

 

学生時代から言語的なファシリテーションを学んできたという大屋敷武瑠(おおやしき たける)さんは、最初はダンサーとして参加していましたが「それぞれに違いがありながらも立場が対等に成立」している「東京のはら表現部」のファシリテーション手法に共鳴し、10月からファシリテーション実習生として活動しているそうです。「今日の発表では、これまでの過程を通して変化してきたみんなの生き生きとした表情が発露され、それが会場に届いたことで、会場と一体になって身体でコミュニケーションを取れたことが一番よかったと思います」とのことでした。

 

アトリエウエストに展示された、メンバーやスタッフの「自分にとっての『東京のはら表現部』とは?」が書かれたメッセージボード

 

 

今回の発表では、メンバーや西さんだけでなく、スタッフ、主催者である東京芸術劇場の担当者、最初期から活動を支えてきた「共創」(多様で異質な人々が出会い、それぞれの新しい世界を創造すること)の専門家など、さまざまな方の声を聞くことができました。そのなかで何度も語られたのが、「みんながファシリテータ」という言葉でした。大屋敷さんは、「『東京のはら表現部』では振付や演出はなく、メンバーの内から現れる多様な表現の良さを西さんがひとつずつていねいに拾い、それをお互いに受け取って共振し合うことで新しいみんなの表現が生まれてきた」と実感を語ります。この1年間の活動を通して、それこそが「みんながファシリテータ」の意味ではないかと考えるに至ったそうです。

 

誰もが「素」の自分で表現できる場をつくること、そして、ファシリテータの育成によってそうした環境を広げていくことに、東京芸術劇場という公共劇場が取り組んでいます。市民の一人としてそのことを知り、その意義を考えるきっかけとなる機会でした。 

 

終演後の記念撮影では、みんな充実した笑顔で満ち溢れていました。     撮影:中澤佑介

 

1期の活動は20203月で終了し、4月からは新しいダンサーとファシリテータも迎えて第2期が始まります。初回のワークショップは412日に開催予定です。来期も、それぞれまったく違う個性を持つ人々がつくり出す新たな表現を見ることができるのが、とても楽しみです。

 

取材・文:澤口えりか
写真:中川 周

 

◆東京のはら表現部  10代・20代のためのインクルーシブダンス連続ワークショップ

 オープンのはら season 1 ~創って、つないで、のはらって!!

【開催日】202022 ()
【場所】東京芸術劇場 ロワー広場、アトリエウエスト
【URL】https://www.geigeki.jp/performance/event259/

 
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